活字 & 映画ジャンキーのおたけび! -5ページ目

お好きな恐怖を、どうぞ。

【怪談新耳袋 劇場版(映画)】

<2004年、日本>
●監督/吉田秋生、鈴木浩介 他
●出演/ 竹中直人、坂井真紀 他


テレビの人気シリーズの劇場版。
実話をベースにしたオムニバスホラーだ。
1話10分ほどの話が計8つ。
さまざまにアプローチを変えた恐怖のカタチで
楽しませてくれる。

なかにはこれってギャグ?と思えるほど、
怖いというより、笑える作品もあるが、
恐怖と笑いは紙一重と言われることを思えば、
案外、この映画は、そのあたりの怖さの本質を
ついているのかもしれない。

また、ほとんど説明らしい説明もなく、
唐突にはじまり、唐突に終わる作品もあるが、
これもまた本来、恐怖なんてものは理屈で
説明できるものではないというメッセージの
ようにも感じる。
恐怖は「考える」のでなく「感じる」もの。

個人的に気にいったのは、
竹中直人主演の、深夜のビルの夜警を襲う
恐怖を描いた「夜警の報告書」。
得体の知れない声に名前を呼び続けられる
「約束」。
眠っている女の首を、夜な夜な絞めにくる
者の正体が衝撃的な「手袋」。

ホラー映画見たいけど、本格的なものは
ちょっと重いなあ、なんて時に
お手軽にホラーテイストに
ひたるには最適な一本かも。
夜中にひとりで見ていて、トイレに行けない
なんて心配はしなくてよさそうだし。(笑)


■個人的ハマリ度 ★★★(★5つが最高)
キングレコード
怪談新耳袋 劇場版


ジャパンバッシングから、ジャパンナッシングへ。

【小泉純一郎と日本の病理(本)】 

●著者 :藤原肇
●出版社:光文社(2005.10 発行)
●価格 :¥1,000


横組な上に、日本語の中に英単語も混ざった文章、
ペーパーバックス的なシンプルな製本、
過剰なつくりが目立つ昨今の出版物の中にあって、
かえって新鮮な印象を受ける本だ。

中身は、歴史的な衆院選の大勝を受け、まさに
今ピークにある、小泉純一郎という男が
何者なのか、これまで表には出てくることの
なかった驚きの事実をちりばめながら、
日本の明日に警鐘を鳴らすというものだ。

祖父から父、そして純一郎へと受け継がれる
小泉家の血脈。郵政民営化にかける決意の陰には
小泉家三代に渡る夢があった。
純一郎がロンドン大学へ留学した真の理由とは?
大手マスコミは決して報じない女性関係に親子関係。
陰の総理の異名をとる、秘書である実姉の存在。
田中真紀子更迭の真相。
酔っ払いが外交していると言われる、その実像とは?
など、かなり刺激的な内容が揃っている。

まあどんなものでも、突出し過ぎると、それに反する
力が出てくるのは世の常。ここに書かれていることが
100%事実とはもちろん言えないだろうが、
物事を多面的に見るための、ひとつのものさしとしては
非常に興味深いものであることは間違いない。

個人的にはいちばん印象に残ったフレーズは
「ジャパンナッシング」。
かつてバッシングの対象だった日本は、
もはやたたく意味もなく、世界から何の関心も
持たれない、からっぽな状態なのだと作者は語る。
そしてその空洞状態をさらに広げていこうと
しているのが、今の小泉政権なのだと。
経済、憲法、軍備、さまざまな面において、
重大な転換点にある日本のこれからを考察するには
格好の一冊だろう。


■個人的ハマリ度  ★★★★(★5つが最高)
藤原 肇
小泉純一郎と日本の病理 Koizumi's Zombie Politics

くもった心を照らす、赤い実。

【蛇イチゴ(映画)】

<2003年、日本>
●監督/西川美和
●出演/宮迫博之、つみきみほ 他


「誰も知らない」の是枝監督がプロデュースした
西川監督のデビュー作。
派手さはないが、しっかりと組み立てられた
ストーリーと、リアリティあふれる台詞で
最期まで退屈せずに楽しめた。

小学校教師の倫子の家は、父と母、それに痴呆症
の祖父の4人暮らし。同僚の教師と結婚も間近の
倫子は、平凡ながらもそれなりに幸せな暮らしを
送っていたが、ある日、祖父がなくなる。
そしてその葬儀で、父が実はリストラで会社を
首になった上に、多額の借金をつくっていたこと
を知る。その上、長く行方不明だった兄も現れて…

何も問題がなさそうに見えた家族が、ある事を
きっかけに、隠し持っていた本音をさらけだし、
次第に家庭が崩壊していくさまが、
ユーモアと生々しい会話で描かれる。
このあたりは、誰もが「あーわかるなあ」と
うなずきたくなる。
誰にも共通する、生活に根ざした視点が
活きているのだ。
それに、キャラひとりひとりが、
役者の好演もあって、実に魅力的。
詐欺師の兄を演じた宮迫の、ひょうひょうとした
立ちふるまいも、よくマッチしている。
つみきみほも久しぶりに見たが、
兄に対する、信じたいけど、信じられないという
微妙な心理を、うまく演じている。

タイトルにある「蛇イチゴ」が、兄と妹をつなぐ
キーになっているのだが、ラストにその答えとして
出てくる蛇イチゴの使い方も、なかなかしゃれていて、
あと味も非常にさわやかだ。
テーマはけっこうヘビーなのだが、
見た後は、心がふっと軽くなる佳作。


■個人的ハマリ度 ★★★★(★5つが最高)
バンダイビジュアル
蛇イチゴ


北の果てに咲く、人情の花。

【網走番外地(映画)】

<1965年、日本>
●監督/石井輝男
●出演/高倉健、嵐寛寿郎 他


先日死去した石井輝男監督と
高倉健が組んだ人気シリーズの第一作。

網走というと刑務所というイメージが
あるのは、この作品の影響が大だろう。
公開時は別の作品と2本立てで、こっちは
サブ扱いだったのに、あまりの評判に
シリーズ化が決定したのだとか。
僕ははじめて見たのだが、なるほど、
納得のおもしろさだ。

ヤクザ者の橘真一は、対立する組の者を殺めた
罪で、網走刑務所に送られてきた。
数年後、真一はムショ仲間と脱獄を企てる。
その裏には、田舎に置いてきた母への
悔恨と愛があった。
もうひとりの囚人と手錠がつながったまま
雪の大地へと飛び出した真一を、
厳しい試練が待っていた…

見る前は、重く暗い映画なのではと思って
いたが、そんなことはなく、
何か飄々とした空気が流れている。
囚人たちの会話やムショ内の様子など、
けっこう笑いどころも多い。
それ故、脱獄してからのアクションシーン
とのメリハリが効いて、一層効果的だ。
カーチェイスならぬ、トロッコチェイスや
列車で手錠を切断するシーンなど、
カメラアングルを含め、すごい迫力。

しかし、それだけではない。
真一の母や妹への思い、逃亡仲間との対立と友情など
喜怒哀楽、人間のあらゆる感情が絶妙にブレンド
されていて、ただおもしろいだけでなく、
この映画のテーマが、実はかなり奥深いもので
あることに気づくのだ。
人間って、なんかいいな。
すがすがしい余韻とともに、ふとそう感じた。


■個人的ハマリ度 ★★★★(★5つが最高)
東映
網走番外地


少年の夏、大人の入口。

【翼はいつまでも(本)】 

●著者 :川上健一
●出版社:集英社文庫(2004.5 発行)
●価格 :¥650


久しぶりに正統派の青春小説を読んだ思いだ。
ベタな言い方だけど、まさに「胸キュン」と
いう表現がぴったりの物語。

時は1960年代後半の青森県。
中学3年の神山君は野球部の補欠部員として
特にどうということのない平凡な毎日を
送っていたが、ある日、ラジオから流れて
きたビートルズの「プリーズプリーズミー」
に強いカルチャーショックを受ける。
突き上げるような衝動を覚えた神山君は、
クラスメイトの前で、その曲を熱唱するという
自分でも考えられないような行動に出る。
そこから、決して忘れられない彼の夏が
幕を開けた…

父親との確執、野球部員との友情と対立、
憧れの女生徒への思い、さまざまな要素が
クロスしながら、神山君のたった一度の
夏が過ぎて行く。
中でも、謎めいたクラスメイト、
斉藤多恵との思いがけないふれあいが、
神山君をさらに少年から大人へと導いていく。

ビートルズの歌がちりばめられ、物語のアクセント
になっているのだが、これは作者の実体験も
かなり混じっているに違いない。
僕は生まれた時にすでにビートルズは存在して
いた世代なので、その衝撃と興奮はリアルには
わからないが、踊るようにつづられた文字から、
十分にその熱い息吹が伝わってくる。

物語の終盤、大人になった神山君が登場する。
年月を経ても、やはりあの夏とつながった
彼の姿に、うれしいような、うらやましいような
気持ちを抱いた。
思うが、人は何かかけがえのない思い出を
手にすれば、何があろうと自分を信じて
生きていけるのではないだろうか。
思い出は、過去を振り返るためだけのものでは
ない。それは明日へと歩く力にもなるのだ。


■個人的ハマリ度  ★★★★(★5つが最高)


川上 健一

翼はいつまでも





夫婦の味はお茶漬の味?

【お茶漬の味(映画)】

<1952年、日本>
●監督/小津安二郎
●出演/佐分利信、木暮実千代 他


黒澤明と並び称される日本映画界の巨匠、
小津安二郎。個人的には黒澤のメリハリの
効いたエンターテイメントの方が好みだが、
ひさしぶりに見た小津作品の、
ゆったりとした空気もなかなかよかった。

商社マンの男が社長の親友の娘と結婚する。
おとなしい夫に対し、勝ち気で活発な妻は
どこか不満を抱いていた。やがて夫婦は、
互いの感情のすれ違いに直面する…

製作されたのは、まだ戦後の匂いの残る時期
だけに、男性社会のイメージがあったが、
どっこい映画の中の女性たちは、
男たちを圧倒するパワーに満ちている。
買い物に、パチンコに街をかっぽし、
女同士で温泉旅行に出かけては、
夜は亭主の悪口大会で盛り上がる。

パチンコをはじめ、野球、歌舞伎、競輪
などの娯楽シーンもふんだんに登場し、
当時の庶民の楽しみ、暮らしぶりが
うかがえるのも興味深い。
若き日の笠智衆や鶴田浩二に出会えるのも
うれしい。

離れつつあった夫婦の心が、ある出来事を
きっかけに再び通いはじめる。
夫婦のあり方が、お茶漬というものに
集約されていく終盤の展開はお見事。
このあたりの微妙な機微は、若い時よりも、
ある程度、年を経てこそ感じ取れるものだろう。
見終わると、心がほっこりとあたたかく、
やさしい気持ちになれる。そんな映画だ。


■個人的ハマリ度 ★★★(★5つが最高)
松竹
お茶漬けの味


ウワサと寝た16年。

【噂の女(本)】 

●著者 :神林広恵
●出版社:幻冬舎(2005.9 発行)
●価格 :¥1,575


去年休刊となった「噂の眞相」。
そこで16年間、編集者として雑誌の終焉までを
見届けた女性の、激動の日々をつづった回顧録。
おもしろくて、またまた一気読み。

僕自身は「噂の眞相」は、それほど興味がなく、
一度も買ったことはない。本屋で見かけたら、
ときどきパラパラとめくる程度だった。
ウソとホントがごちゃ混ぜのスキャンダル雑誌。
しかし時に、衝撃的なスクープを放つ。
業界にファンが多く、芸能人にも意外と
読まれている。イメージとしてはそんな感じ。

22才で編集部に飛び込んだ著者は、
名物編集長、岡留のもと、
すれていないかわいい女の子から、
したたかな女編集者へと鍛えられていく。
その舞台裏は、誌面に負けず劣らず刺激的だ。
抗議の電話におののく新人時代、
夜な夜な新宿のバーを朝まで渡り歩いての
情報収集&人脈づくり、
ターゲットをねらっての延々たる張り込み、
右翼による編集部襲撃…

中でも編集者、神林にとって最大の事件は
取材執筆した記事をめぐって東京地検特捜部に
名誉毀損罪で刑事告訴されたことだ。
そして2005年春、懲役5ヶ月、執行猶予2年の
有罪が確定する。そう、彼女は編集者から
前科者になってしまったのだ。
本書にはその事の顛末が詳しく記されていて、
権力側のメディアへの対応もわかって興味深い。

最終号の原稿のラスト、「さようなら噂眞」の
一行がなかなか書けなかったというところには、
ちょっとグッときた。
それだけ濃いつきあいを続けてきた雑誌との
決別は、何か戦友との別れにも似た
万感の思いがあったにちがいない。
「噂の眞相」の読者いかんに関わらず
十分楽しめる一冊だ。


■個人的ハマリ度  ★★★★(★5つが最高)
神林 広恵
噂の女


上空7千メートルの空中ブランコ

【凍(本)】 

●著者 :沢木耕太郎
●出版社:新潮社(2005.9 発行)
●価格 :¥1,680


沢木耕太郎はノンフィクション分野では
いちばん好きな作家だ。
「一瞬の夏」「深夜特急」「バーボンストリート」
など、どの作品も、一度読み出すと途中で
やめられらい強烈な吸引力を持っている。
作品ごとに、対象との距離の取り方を変える
著者だが、本作では沢木自身は全く登場せず、
登場人物たちの目から物語が語られる。

テーマは登山。
登場人物は、共に世界的クライマーである
山野井泰史と、その妻、妙子。
これは彼ら夫婦が、ヒマラヤの高峰、
ギャチュンカンに挑んだ壮絶な記録だ。

いやー、手に汗握る思いで一気に読んだ。
舞台は零下数十度にもなるヒマラヤなのだが、
絶壁にハーケンを打ち込み、一歩一歩と登っていく
夫婦の熱くたぎるような思い、そしてゆるぎない
パートナーシップが、文字を追うこちらの心にも
ビシビシと伝わってくるのだ。
吹雪き、凍傷、雪崩、アクシデントが
次々とふたりを襲う。
落下し、宙吊りになった妙子に山野井は…

いちばん印象的だったのは、身動きが取れなく
なったふたりが、壁にロープを張り、そこに
ブランコのように体をあずけて、一夜を過ごす
シーンだ。さえぎるものの何もない中の、
上空7千メートルでの空中ブランコ。
想像しただけで、全身が凍りそうになる。

彼らがこの登山を終えて喪ったもの、そして
獲たものとは一体何だったのか。
山野井はもちろん、それ以上に妙子の
強さに衝撃を受けた。
人間ってすごいなあ。
感想といえば、その一言につきる。

少し前に見た映画「運命を分けたザイル」と
イメージが重なるところがあったが、
夫婦の会話にも、そのことに触れた箇所がある。
過酷な状況に陥った山野井が妙子に言う。
「死のクレバスってあるだろ。もし俺たちが
生き延びられたら、あれより凄いことになるかもな」
「死のクレバス」とは、映画の元にもなった、
遭難した本人が書いた本のことだ。

「運命を分けたザイル」の感想はこちら。
http://ameblo.jp/katsuzi-junkie/
entry-10003913182.html#cbox


■個人的ハマリ度  ★★★★★(★5つが最高)
沢木 耕太郎


命が惜しければ、携帯を切るな。

【セルラー(映画)】

<2004年・アメリカ>
●監督/デヴィッド・リチャード・エリス
●出演/キム・ベイシンガー、クリス・エヴァンス  他


携帯を使ったワンアイデアものの映画。

高校の科学教師ジェシカは、夫と11歳の息子
リッキーとともに幸せな生活を送っていたが
ある日突然、見知らぬ男たちによって誘拐、
監禁されてしまう。
ジェシカが壊れた携帯を修理し、
電話をかけると、ある青年の携帯につながる。
ジェシカは彼に助けを求めるのだが…

この見知らぬ相手とつながった携帯だけが、
ジェシカの助かる唯一の手段というのが、
この映画のミソだ。携帯が切れた時、
それはすなわち「死」を意味する。
青年は携帯から聞こえるジェシカの声だけを
頼りに、その居場所をつきとめようと、
車を走らせる。
携帯の特性を活かした「移動」がふんだんに
盛り込まれた展開は、テンポも抜群で一気に
見せる。

が、テンポをよくするためか、ところどころに
コメディ調の演出が顔をのぞかせるのは
個人的な好みで言えばいらない。
なんだかそのせいで、サスペンス的な空気が
ところどころで途切れてしまっている気がする。
どうせなら、頭からケツまで徹底して
緊迫したムードでつっ走ってほしかった。
それと登場人物たちのキャラは無きに等しく、
ただストーリーを動かすための道具になって
しまっている。まあ、この手の映画にそれを
求めても仕方ないかもしれないけど。

とはいえ、何も考えず、ポップコ-ン片手に
気軽に楽しむにはもってこいの映画だ。


■個人的ハマリ度 ★★★(★5つが最高)
アミューズソフトエンタテインメント
セルラー


こころが、帰る場所。

【船を降りたら彼女の島(映画)】

<2002年・日本>
●監督/磯村一路
●出演/木村佳乃、大杉蓮 他


「がんばっていきまっしょい」や「解夏」など
日本情緒あふれる演出が持ち味の磯村監督作品。
本作も、瀬戸内海の小島を舞台に、美しい風景を
織りまぜながら、ゆったりと物語が進んでいく。

東京の出版社に勤務する久里子は、カメラマンの恋人
との結婚を決意し、そのことを両親に報告するために
帰郷する。教師を定年退職した父と母は、
廃校になった小学校を改築して民宿を営んでいた。
父を前に、なかなか結婚のことを切り出せない
久里子の胸中に、幼い頃の思い出が蘇る…

特にどうということのない話で、ドラマチックな
展開や意外な事実が出てくるわけでもない。
久里子がどうして結婚話を切り出せないのかも
よくわからない。
だけど、どこか懐かしい景色と、
のんびりと流れる時間に、まあそのへんはいいか、
という気になってくる。

久里子が子供の頃のことを回想するシーンでは、
いつまにか昔の自分の姿を思い浮かべていた。
映像が映し出しているのは、愛媛の小さな島
なのだが、見ている者はそこに、
それぞれの故郷を重ねるのではないだろうか。

映画はちょっとしたサプライズがあって、
再び久里子が島を離れるところで幕を閉じる。
彼女は以前と同じではない。
背負っていたものを下ろし、
新しい思いを抱いて帰っていくのだ。
故郷を離れて暮らしている人が見ると、
きっと帰省したくなる。そんな映画だ。


■個人的ハマリ度 ★★★(★5つが最高)
東宝
船を降りたら彼女の島