少年の夏、大人の入口。 | 活字 & 映画ジャンキーのおたけび!

少年の夏、大人の入口。

【翼はいつまでも(本)】 

●著者 :川上健一
●出版社:集英社文庫(2004.5 発行)
●価格 :¥650


久しぶりに正統派の青春小説を読んだ思いだ。
ベタな言い方だけど、まさに「胸キュン」と
いう表現がぴったりの物語。

時は1960年代後半の青森県。
中学3年の神山君は野球部の補欠部員として
特にどうということのない平凡な毎日を
送っていたが、ある日、ラジオから流れて
きたビートルズの「プリーズプリーズミー」
に強いカルチャーショックを受ける。
突き上げるような衝動を覚えた神山君は、
クラスメイトの前で、その曲を熱唱するという
自分でも考えられないような行動に出る。
そこから、決して忘れられない彼の夏が
幕を開けた…

父親との確執、野球部員との友情と対立、
憧れの女生徒への思い、さまざまな要素が
クロスしながら、神山君のたった一度の
夏が過ぎて行く。
中でも、謎めいたクラスメイト、
斉藤多恵との思いがけないふれあいが、
神山君をさらに少年から大人へと導いていく。

ビートルズの歌がちりばめられ、物語のアクセント
になっているのだが、これは作者の実体験も
かなり混じっているに違いない。
僕は生まれた時にすでにビートルズは存在して
いた世代なので、その衝撃と興奮はリアルには
わからないが、踊るようにつづられた文字から、
十分にその熱い息吹が伝わってくる。

物語の終盤、大人になった神山君が登場する。
年月を経ても、やはりあの夏とつながった
彼の姿に、うれしいような、うらやましいような
気持ちを抱いた。
思うが、人は何かかけがえのない思い出を
手にすれば、何があろうと自分を信じて
生きていけるのではないだろうか。
思い出は、過去を振り返るためだけのものでは
ない。それは明日へと歩く力にもなるのだ。


■個人的ハマリ度  ★★★★(★5つが最高)


川上 健一

翼はいつまでも