上空7千メートルの空中ブランコ | 活字 & 映画ジャンキーのおたけび!

上空7千メートルの空中ブランコ

【凍(本)】 

●著者 :沢木耕太郎
●出版社:新潮社(2005.9 発行)
●価格 :¥1,680


沢木耕太郎はノンフィクション分野では
いちばん好きな作家だ。
「一瞬の夏」「深夜特急」「バーボンストリート」
など、どの作品も、一度読み出すと途中で
やめられらい強烈な吸引力を持っている。
作品ごとに、対象との距離の取り方を変える
著者だが、本作では沢木自身は全く登場せず、
登場人物たちの目から物語が語られる。

テーマは登山。
登場人物は、共に世界的クライマーである
山野井泰史と、その妻、妙子。
これは彼ら夫婦が、ヒマラヤの高峰、
ギャチュンカンに挑んだ壮絶な記録だ。

いやー、手に汗握る思いで一気に読んだ。
舞台は零下数十度にもなるヒマラヤなのだが、
絶壁にハーケンを打ち込み、一歩一歩と登っていく
夫婦の熱くたぎるような思い、そしてゆるぎない
パートナーシップが、文字を追うこちらの心にも
ビシビシと伝わってくるのだ。
吹雪き、凍傷、雪崩、アクシデントが
次々とふたりを襲う。
落下し、宙吊りになった妙子に山野井は…

いちばん印象的だったのは、身動きが取れなく
なったふたりが、壁にロープを張り、そこに
ブランコのように体をあずけて、一夜を過ごす
シーンだ。さえぎるものの何もない中の、
上空7千メートルでの空中ブランコ。
想像しただけで、全身が凍りそうになる。

彼らがこの登山を終えて喪ったもの、そして
獲たものとは一体何だったのか。
山野井はもちろん、それ以上に妙子の
強さに衝撃を受けた。
人間ってすごいなあ。
感想といえば、その一言につきる。

少し前に見た映画「運命を分けたザイル」と
イメージが重なるところがあったが、
夫婦の会話にも、そのことに触れた箇所がある。
過酷な状況に陥った山野井が妙子に言う。
「死のクレバスってあるだろ。もし俺たちが
生き延びられたら、あれより凄いことになるかもな」
「死のクレバス」とは、映画の元にもなった、
遭難した本人が書いた本のことだ。

「運命を分けたザイル」の感想はこちら。
http://ameblo.jp/katsuzi-junkie/
entry-10003913182.html#cbox


■個人的ハマリ度  ★★★★★(★5つが最高)
沢木 耕太郎