活字 & 映画ジャンキーのおたけび! -9ページ目

オカンとボクと、あなたの物語。

【東京タワー オカンとボクと、時々、オトン(本)】 

●著者 :リリー・フランキー
●出版社:扶桑社(2005.06 発行)
●価格 :¥1,575


各方面で絶賛されている本書。
いやー、参った。参りました。
本を読んでこれだけ泣かされたのは、
いつ以来だろう。
これはおすすめというより、必読本と断言!!

作者の自伝的小説なのだが、主軸となっている
のは、幼少期から死別までの、
オカンこと母親との関係だ。
僕はリリー・フランキーという人のことは、
ほとんど知らない。そういえば、そんな名前の人
いたなあ、たまにテレビにも出てたっけ?
という程度の認識。
しかしそれはたいした問題ではない。
読み進めるうちに、リリーさん、そしてその
オカンのキャラクターは、くっきりとした輪郭を
ともなって、心に入り込んでくるのだ。

「いつか本当にやってくる事。確実に訪れる事が
わかっている恐怖。ボクが一番恐れている事」

母親との別れをさして、リリーさんはこう記す。
これは、すべての人に共通する想いではないか。
それだけに、物語の後半、まさにその恐怖へと
近づくにつれて、つらくて何度も本を途中で閉じた。

親子、特に母と子の関係は、どこかせつない。
母は子に絶対勝てないし、子は母に勝てない。
それゆえ、その勝てない相手が、何かに負けて
消えてしまうことなど、想像すらしたくないのだ。
リリーさんのオカンを見る目、
そこに自然と自分を重ねてしまう。
これは、「オカンとボク」の物語であって、
「あなたとオカン」のドラマでもあるのだ。

文章は軽めのタッチで笑える箇所もいっぱい。
(本来の持ち味はこっちらしい)
本当に時々しか出てこないオトンも、
スパイスのように、いい味を出してる。
悲しく涙が出てしまうのだが、読み終えると、
あたたかい陽だまりにつつまれているような、
安らぎを覚える。それはとりもなおさず、
オカンの偉大なる愛にちがいない。


■個人的ハマリ度  ★★★★★(★5つが最高)
リリー・フランキー
東京タワー ~オカンとボクと、時々、オトン~


呪いは、国境を超えて。

【呪怨/THE JUON(映画)】

<2004年・アメリカ、日本>
●監督/清水崇 
●出演/サラ・ミシェル・ゲラー、石橋凌 他


日本人監督として、はじめてアメリカで興行収入
1億ドルを突破した作品としてクローズアップ
された作品。
とはいえ、国内ではオリジナルビデオ、そして
劇場版とすでに4作が製作、公開されているの
だから、正直かなり食傷ぎみ。
(まあ全部見てる僕も僕だけど)

東京の国際大学で福祉を学んでいるカレンは、
郊外の家に住む米国人一家の介護を手伝うことに。
その家には軽度の痴呆を抱えた母親エマと、
息子のマシュー、妻のジェニファーが暮らしていた。
だがその部屋に入ったカレンは、エマに襲いかかる
黒い影を見てしまう……。

大まかなストーリーは、日本版とほぼ一緒だが、
登場人物が日本人から外人になったことで、
なんだか奇妙な違和感を覚える。
でもそのことがマイナスにはなっていない。
ホラーとは、一種のファンタジーなのだから、
畳と金髪の組み合わせという非日常も、
案外すんなりと入っていけるのだ。

映画の真のヒロイン(笑)とも呼ぶべき
伽椰子さんの登場には、さすがにもう驚きは
ないが、本作ではじめて彼女に出会ったアメリカ人
は、さぞびっくりしたに違いない。
僕もビデオ版の第一作で見た時は、
いやーな汗をかきながら、彼女から目をそらす
ことができなかった。
伽椰子さんが夫に殺された理由など、日本版には
なかったエピソードが加わったことで、ストーリー
に深みが出ている点がよかった。
しかし演出的には、日本版のベタベタと粘りつく
ような印象にくらべ、かなりあっさりしているよう
に感じた。まあこの辺は、お国柄に合わせてタッチ
を変えたのだろう。

このあとアメリカ版のパート2の製作も予定されて
いるとか。もうお腹いっぱいと言いながら、
また見てしまうんだろうなあ。


■個人的ハマリ度 ★★★(★5つが最高)
ジェネオン エンタテインメント
THE JUON -呪怨- ディレクターズ・カットコレクターズ・エディション


乃南ワールドの鼓動。

【風紋/上・下(本)】 

●著者 :乃南アサ
●出版社:双葉文庫(1996.09 発行)
●価格 :¥900(上巻)、¥800(下巻)


乃南さんの作品は、けっこう好きでかなり読んで
いる。中でも直木賞を受賞した「凍える牙」の
音道刑事シリーズは、キャラの立ち方が抜群で、
新しいシリーズが出る度に買っている。
他にも短編にも名作が多く、文章のうまさと、
心理描写の巧みさにはいつもうならされる。
もっともっとメジャーになっていい存在だと
思う。(いや十分メジャーだけど)

さて本作だが、乃南さんの作品では比較的初期に
あたる。上下巻で計1000ページ近い大作だ。
母親を殺された家庭と、その加害者である
高校教師の家庭。物語はこの2つの視点が交錯して
進む。それに事件を追いかける若い新聞記者が
からんでくる。

うーん、ディテールは申し分ないのだが、
ちょっと冗長な印象を受けた。
決して悪くはないのだが、特別心に響くものが
ない。理由は物語が平板すぎるところに
あるように思う。
設定からすれば、もっとドラマチックにできそう
なものだが、終始淡々と話は進み、何か事件の
客観的なリポートを読んでいるような感じ。

キャラもそれぞれの事情を抱え、動いているの
だが、それも通り一遍の印象を拭えない。
キャラ造型にかけては天下一品の乃南さんに
してはどうしたんだろ?っていうぐらい
人形っぽい薄っぺらさを感じてしまう。
ミステリーとしても、最期におー!という
どんでん返しがあるわけでもない。
生意気なことを言うと、やはり作家というのも
キャリアを積むにつれて、うまくなっていくもの
なんだなあと感じた。

この作品には、続編の「晩鐘」という作品が
これまた上下巻の大作としてあるようだ。
そこでは、母親を殺された娘と、殺した男の
息子が、年月を経て再会するのだとか。
これだよこれ!こういうのが欲しいんだ!(笑)
もしかして本作は、続編への予告編に
過ぎなかったのか?
乃南さんも、キャラのその後がずっと気になって
いたのが執筆の動機だったらしい。ということは、
本作は本人にとっても、どこか消化不良の面が
あったということだろうか。
しかし、なんだかんだと文句言ってるようで、
一刻も早くその続編が読みたくなっているのだから、
乃南ワールドの威力、恐るべしだ。


■個人的ハマリ度  ★★★(★5つが最高)
乃南 アサ
風紋〈上〉
乃南 アサ
風紋〈下〉


河は、ふたりの恋と、ふたつの国の間を流れ…

【パッチギ(映画)】

<2004年・日本>
●監督/井筒和幸
●出演/塩谷瞬、沢尻エリカ、オダギリジョー 他


井筒監督の前作「ゲロッパ」にはガッカリさせ
られただけに、この作品は敬遠気味だったのだが、
評判の良さにつられて見てみた。

舞台は1968年の京都。高校二年の康介は、
ある日出会った朝鮮高校の女子キョンジャに
一目惚れする。しかし彼女は、康介の通う高校と
対立する朝鮮高校の番長アンソンの妹だった。
康介はキョンジャの気を引くため朝鮮語を学び、
彼女が学校で演奏していた「イムジン河」を
弾こうと、ギターを手にして練習に没頭する…

やわらかい京都弁が飛び交う中、当時の時代の空気
が全編に漂っていて、一気に引き込まれる。
井筒監督お得意のケンカ節もそこかしこに
散りばめられ、画面からは青春のエネルギーとも
いうべき躍動感が、ジンジンと伝わってくる。

主役のふたりも全く知らなかったが、自然な演技が
なかなかいい。先入観なく見れたことが、
高校生の瑞々しいイメージにつながった気がする。
「イムジン河」の哀愁を帯びたメロディも、
作品のムードにマッチしてせつなさを感じさせて…
と、これ井筒監督の最高傑作かも!と思って
見ていたのだが、後半になって
どうも展開に疑問を持ってしまった。

僕はこれ、てっきり主役ふたりのラブストーリー
が主軸の映画だと思っていたのだが、
途中から物語は、日本と在日の人々の対立の歴史の
方にスライドしていくのだ。
激しい葛藤に、主人公がギターを壊して
川に捨てるシーンがあるのだが、それも日本人の
自分に向けられた彼らの怒りの目に、
感情が爆発して、という風に映った。
もちろん主人公が朝鮮学校のヒロインに恋する話
なのだから、そういう要素があるのは当然だ。
しかし、恋のために始めたギターなら、
やはりそれを捨てるのも、恋に破れて、
であるべきではなかったか。
構成要素の比重が、
在日問題の中の恋 > 恋の中の在日問題
になってしまったのが残念。逆であってほしかった。
内心、井筒版「ロミオとジュリエット」を
期待していたのだ。

まあ、これはあくまで個人的な印象なので、
そのあたりが気にならないという人も多いと思う。
テレビ番組等で、日朝問題について、かなり辛らつな
コメントをする監督を、何度か見た事がある。
きっとそこに、監督のメッセージが込められて
いるのだろう。


■個人的ハマリ度 ★★★(★5つが最高)
ハピネット・ピクチャーズ
パッチギ ! スタンダード・エディション

感じる読書。

【GOTH/夜の章/僕の章(本)】 

●著者 :乙一
●出版社:角川文庫(2005.06 発行)
●価格 :¥460(夜の章)、¥500(僕の章)


「第3回本格ミステリ大賞」受賞の連作短編集。
ハードカバーでは一冊だったものが、
文庫ではなぜか分冊になって登場。
わざわざ分ける程の分量でもないし、
作品の並び順も変わってしまっている。
商売はわかるが、こういうのはやめてほしいもんだ。

主な登場人物はふたり。
心に果てしない闇を抱える「僕」と、
その僕の本性を見抜いた少女、森野夜。
「殺人」をキーワードに、時に残酷に、
時に切なく、物語は展開される。
全部で6つの話から成っているのだが、
そのリンクのさせかたが、もう絶妙としか
いいようのないさじ加減なのはさすが。

しかし、乙一自身もユーモアたっぷりのあとがきで、
書いているのだが、この本、果たして
本格ミステリと呼んでいいのだろうか?
たしかにトリック的な要素はあるし、Aだと思って
いた人物が実は…というような謎解きもあるのだが、
作者が描きたかったのは、そこではないだろう。

乙一の作品を読むのは、
「ZOO」「暗いところで待ち合わせ」に続いて3作目
だが、本作はその中では一番感想を言いにくい。
これこれこういう本だと、一言ではとても
表現できないのだ。
何か、深い水の底で、ナイフを手にして、
そこに映り込む自分と対話しているような、
そんな感覚を覚えるのだ。
これは細かく筋を追うというよりも、
「感じる」小説なのだと思う。

ただ、これは個人的な好みの問題だが、
登場人物を徹底して突き放して描いているため、
感情移入というものはほとんどできない。
小説を読む時は、キャラの内面に入り込みたい
僕にとっては、そのあたりで物足りない面もあった。
作者自身もキャラとの距離の取り方に迷いが
あるような印象も受けたが、これは考えすぎだろうか?
あなたは読んで何を感じるか。ぜひ試してほしい。


乙一の「暗いところで待ち合わせ」の感想は以下

http://ameblo.jp/katsuzi-junkie/entry-10002189011.html#cbox


■個人的ハマリ度  ★★★(★5つが最高)
乙一
GOTH 僕の章
乙一
GOTH 夜の章


スーパーサイズ、食いたくなっちゃったんだけど…

【スーパーサイズ・ミー(映画)】

<2004年・アメリカ>
●監督/モーガン・スパーロック
●出演/モーガン・スパーロック 


『ファーストフードを1日3食1ヶ月間
食べ続けると人間どうなる?』
そんなテーマのもと、監督自身が実験台となって
マクドナルドのハンバーガーをひたすら、
食べ続ける姿を追ったドキュメンタリー。

監督は映画を撮るにあたって、ルールを設定する。
それは店で「スーパーサイズ」を勧められたら、
必ず応じること。
この、日本にはないスーパーサイズというのが
ものすごい。ポテトもドリンクも、
まるでバケツかと思えるような大きさの
容器で出てくるのだ。
こんなものを日常的に食っていたら、そりゃ
肥満になるのも仕方ないわなとうなずかざるを
得ない。

いたって健康だった監督が、食べ続けることに
よってカラダに変調をきたし、20日を過ぎた
あたりには、血液や肝臓の状態を示す数値が
正常値とはかけ離れたものになり、
医者からは、このまま続ければ命の保証はない
と宣告されるまでになる。
それでも監督は食べるのをやめようとしない。
そこにあるのは、作品完成への執念か、
ひとりの男としてのプライドか。

もうひとつ驚いたのは、アメリカの学校の給食。
バイキング形式になっていて、そこには
ハンバーガーやピザなどはもちろん、
スナック菓子も置かれていて、毎日菓子と
コーラばかりを選んで、
ランチをすます子供も多いらしい。
そりゃ何のおとがめもなければ、子供は好きな
ものばかり食べるのは当然。
栄養価の計算に気を配る日本の給食事情から
すれば、信じられない状態だ。

1ヶ月の苦行を終えた監督がどうなったかは
見てのお楽しみだが、僕自身はこの映画を
見終わったあと、マクドナルドへ行きたくて
仕方なかった。普段は店の前を素通りする
だけなのに、なぜかあのハンバーガーの味が
恋しくなってしまった。
これをサブリミナル効果というのだろうか。
ファーストフードの弊害に警鐘を鳴らすのが
映画の目的のはずなのに、これは逆効果?(笑)

非常に興味深い内容で、発見も多い映画なのだが、
やや通り一遍で教育的なムードに偏って
しまったのは残念だ。
エンターテイメントの要素をもっとプラスすると、
さらにおもしろいものになったと思う。
それにしても日本でも期間限定でいいから
やってくれないかなあ。スーパーサイズ。


■個人的ハマリ度 ★★★(★5つが最高)
レントラックジャパン
スーパーサイズ・ミー

スクール…ではなく、オフィスウォーズ。

【26歳、熱血社長、年商70億の男(本)】 

●著者 :杉本宏之
●出版社:経済界(2004.04 発行)
●価格 :¥1,470


最近、若くして成功した社長の自叙伝が本屋には
あふれているが、そのほとんどがいわゆるIT関連。
まあ、新しい業界は、必然的に起業しようとする
者にも若い人間が多くなるのだから、
それは当然とも言える。
だが、本書の社長のフィールドは不動産業界。
伝統と蓄積されたノウハウを持ったライバルが
うようよといる世界だ。
そこで、どうやって若社長は成功を勝ち得たのか?
本書に興味を持った一番の理由だ。

作者の生い立ちは、けっこうすさまじい。
父親の事業の失敗で各地を転々する少年時代。
8歳の時の交通事故で、左足が不随となる。
13歳で母を亡くし、19歳で父が蒸発。
就職した不動産会社で3年間、トップセールスを
続け、24歳で独立、
「エスグラントコーポレーション」を起業する。

エスグラントの特色はワンルームマンション
に絞った事業展開だ。しかしワンルームとはいえ、
有名デザイナーにデザインを依頼するなど、
外装、内装ともに、通常よりもワンランク上の
グレードを整え、常に100%の入居率なのだという。
入居者に人気が高くなれば、必然的にそれは
オーナーにとってのメリットになる。
なるほど、なかなかうまいやり方だと感心。

しかしこの会社が成功した真の理由は、他にある。
それは社長の強烈なリーダーシップ、カリスマ性だ。
とにかくこの社長、何かとよく泣く。
会社の決起集会で泣き、辞める社員を説得するのに
泣き、念願だったサイパンでの社員旅行のあいさつ
で泣き…。
だがそんな社長にとって、忘れられない涙がある。
起業したものの、物件は全く売れず、
銀行からの融資も下りない。倒産一歩手前まで
追いつめられた社長は、そこで気づく。
こんな状況になっても、自分はまだカッコつけてる。
全てをさらけだしていない…と。
そして、社長は社員を前に、会社の実情と自分の
ありのままの気持ちを、泣きながら告白する。
そこから何かが変わっていったのだ。

胸にハッとつきささる言葉が、いくつもあるのだが、
特につぎの言葉は印象的だ。

『心が変われば、行動が変わる。
 行動が変われば、習慣が変わる。
 習慣が変われば、人格が変わる。
 人格が変われば、運命が変わる』

組織とは結局、人である。
ひとりの人間の思い、情熱は、人を引き寄せ、
そしてそれは、さらに大きなうねりとなって、
企業を動かし、変えていく。
冷めていては、何も始まらない。
人間のパワー、可能性にあらためて
気づかされる。そんな本だ。


■個人的ハマリ度  ★★★★(★5つが最高)


杉本 宏之

26歳、熱血社長、年商70億の男—倒産寸前から、劇的なV字回復を遂げた男達の闘い





ベン・ハーという精神。

【ベン・ハー(映画)】

<1959年・アメリカ>
●監督/ウィリアム・ワイラー
●出演/チャールトン・ヘストン、スティーブン・ボイド 他


これほどの名作の感想を書くのは、ほんとに
今さらで申し訳ないのだが、どうもこの手の
古代や中世の、いわゆるコスチューム物が苦手で、
3時間半という長さもあって敬遠していたのだ。
今回はじめて見てみて、やっぱり食わず嫌いは
ダメだなあと実感。

時はローマ帝国時代、名門の家に生まれた
ベン・ハーは、親友のメッサラに裏切られ、
母妹ともに囚われの身となる。
奴隷として戦いの場におもむいたベン・ハーは、
司令官を助けたことで、固い絆で結ばれる。
やがてローマに戻ったベン・ハーは、
戦車競技大会でメッサラを倒し、見事復讐を
果たすのだが…。

歴史大作というと、時代背景の描写に時間を
割いたり、数多くの登場人物の思惑が入り乱れ、
焦点がぼやけることも少なくないが、この映画に
関しては決してそんなことはない。
物語は常に主人公であるベン・ハーに沿って
描かれ、彼の視線で展開される。
最初から終わりまで、その視線にブレがないので、
シンプルでわかりやすく、
3時間を超える長丁場にも退屈はしない。
観客は映画が進むにつれて、どんどんベン・ハーに
感情移入していくのだ。

さんざん話には聞いていた戦車競技のシーンは、
ドギモを抜かれる迫力。
走る馬車の地響きが聞こえてくるようだ。
それにしても、人だけならまだしも、
あれだけの馬を使って、よく整然と撮影できた
ものだ。一体どれほどの訓練を積んだのだろうか。
この戦車大会で、ベン・ハーは宿敵メッサラに
打ち勝ち、復讐を遂げる。
てっきり、これで物語は終わりを迎えるのかと
思っていたら、さらなる試練がベン・ハーを襲う。
そして気づかされるのだ。実はここからこそが、
映画の真のテーマであることに。

映画の終盤は、ベン・ハーの苦悩に、キリスト教の
理念が絡まり、画面からは崇高な空気が漂う。
ベン・ハーの内に、人間のあらゆる感情が
入り乱れ、変化していく様が生々しく描かれる。
このあたりが、本作をただの歴史大作だけに
終わらせず、特別な一本にしている所以だろう。
何かベン・ハーとともに時代を生きたような、
たしかな充実感とともに、エンドマークを
見届けることができた。
名作は時代を超える。うなずくしかない。


■個人的ハマリ度 ★★★★(★5つが最高)


ワーナー・ホーム・ビデオ

ベン・ハー 特別版



「松本人志監督作品」の評価は?

【シネマ坊主2】 

●著者 :松本人志
●出版社:日経BP出版センター(2005.06 発行)
●価格 :¥1,365


日経エンタテインメントの連載をまとめた
映画評の第2弾。
ダウンタウンの松っちゃんによる、ある意味
独断と偏見に満ちた映画の見方が満載だ。
まな板に上げられた映画は、ハリウッドは
もちろん、日本、韓国、中国、ヨーロッパ
など80本。松っちゃんはそれらを10点満点の
採点とともに、バッサバッサと切っていく。

笑いにおいて、あれだけのオリジナリティを
発揮する彼である。映画評においても、
ひとすじなわでいくわけはない。
イメージからは予想すらできないものが
高い評価だったり、反対に名作の誉れ高い
作品が最低評価だったり。
参考までに最高と最低の評価作品を記すと、

●10点
「鬼が来た」
「モンスターズ・インク」
「ペーパー・ムーン」
「ディープ・ブルー」
●0点
「モンスーン・ウェディング」
「千と千尋の神隠し」
「トリプルX」
「ロスト・イン・ラ・マンチャ」
「パンチドランク・ラブ」
「いかレスラー」

あの「千と千尋の神隠し」に0点をつけられる
とは、映画業界とのしがらみのない彼だから
できることかもしれない。
低評価の理由の一節に「子供は楽しいものを
自分で見つけ出す動物、与えてやる必要はない」
と言っている。宮崎作品のメッセージ性の強さが
肌に合わないのだろうか。
一方、同じアニメで最高評価の「モンスターズ・
インク」には、「笑いが一番素敵ということを
うたってくれたのが、すごくうれしかった」と
これまたイメージとは違う、えらく素直な
賛辞を送っている。

10人いれば10の見方があるのが映画だ。
だから、これをもとに映画を見たり見なかったり
というのは、やめた方がいいだろう。
それよりも「松本人志の映画評」という
ひとつの芸として楽しめば、その独自の視点も
十分におもしろく感じられると思う。

さて、長年のファンとしては映画評もいいけど、
そろそろ見たいんだけど、松本人志監督の姿を。
ねえ、松っちゃん。


■個人的ハマリ度  ★★★★(★5つが最高)


松本 人志

シネマ坊主2


松っちゃん関連で、僕が最近はまってるメルマガを
ひとつ紹介します。松っちゃんのボケの実例から、
その発想を学ぼうというテーマで、笑える上に
センスも磨けるってことで、大人気です。
松っちゃんファンはもちろん、それ以外の方も
見る価値ありですよ。

【実例で見るダウンタウン松本人志のこの発想】
http://www.mag2.com/m/0000152903.html


戦わなきゃ!現実と。

【現実入門】 

●著者 :穂村弘
●出版社:光文社(2005.03 発行)
●価格 :¥1,470


著者は歌人にしてエッセイスト。
この人の本は初めて読んだが、ちょっと冷めた
ようでいて、ほのぼのとした空気も漂う
独特の文体が印象的だ。歌人らしく、
短いセンテンスの中に、心地いいリズムが波打つ。
本書は、42歳にして人生の経験値が著しく乏しい
著者が、さまざまな「初体験」に挑んだ記録だ。

ざっとその初物ずくしのメニューを並べると、
「献血」「モデルルーム見学」「占い」
「結婚パーティ」「合コン」「ハトバスツアー」
「ブライダルフェスタ」「健康ランド」
「一日お父さん」「競馬」「相撲観戦」
「部屋さがし」  などなど。

女性編集者のサポートを受けながら、
時に勇気をふりしぼり、時に意外と大胆に、
著者は未体験の世界へと足を踏み入れる。
文章はあくまでクールで、一定のトーンを
保っているのだが、それが心の動揺を
悟られまいとする著者のプライドのようで、
かえってリアリティがあったりするのだ。

さまざまな局面に出会い、乗り越える事で
経験値を高めた著者は、最後に驚くべき
行動に打って出る。
何の前ぶれもなかっただけに、
これには、ホントにびっくりさせられた!
でも、あとで見返したら、何としっかり
本の帯でネタバレされてる。
おいおい、ここはどう考えても、前もって
知らない方が楽しめるポイントだろ!

本書に興味もたれた方は、本屋で見かけても
帯を隠して手に取ってほしい。
で、カバーをかけるか、
帯は外した上で読んでほしい。
(僕は最初に帯を見たはずだが、読む時は
カバーも含めて取ってしまってるので、
帯の件は忘れていたのだ)

「初めて」は、こわいけど、どこか心ときめく。
自分も何か始めてみるかな。
そんなきまぐれを、後押ししてくれる本だ。


■個人的ハマリ度  ★★★★(★5つが最高)


穂村 弘

現実入門