活字 & 映画ジャンキーのおたけび! -8ページ目

「斬新」の賞味期限

【勝手にしやがれ(映画)】

<1959年・フランス>
●監督/ジャン・リュック・ゴダール
●出演/ジャン・ポール・ベルモンド、
    ジーン・セバーグ 他


ヌーヴェルヴァーグの旗手、
ゴダールの衝撃のデビュー作。
もちろん作品名も、ゴダール作品がもたらした
映画界への影響の大きさも知ってはいた。
でも、なんとはなしにこの手の作品って、
辛気くさくておもしろくないだろうなという
先入観があって敬遠していたのだ。

今回見てみて、その推測が外れていたことを実感。
主人公の男が犯した殺人からの逃避と、
それを追う警察という図式がもたらす緊迫感。
フランス映画らしい、おしゃれでいて、
どことなく哲学めいた男女のセリフのやりとり。
なかなか最後まで飽きる事なく見れた。
アメリカ娘を演じた女優、ジーン・セバーグも
すごくチャーミングだ。

しかし残念ながら、革命的と言われる
この映画の斬新さに驚くことはなかった。
撮影所ではなく、街頭を舞台に手持ちカメラで
ドキュメンタリーのごとく撮られた映像。
ほんとに脚本があるの?と思わせる
即興的なセリフと演技。
ジャンプするごとく素早く切り替わるシーン。
それらは全部、どこかで何度も見たようなもの。
考えたら当たり前だ。
ゴダールがあみ出した数々の手法は、その後、
ハリウッドのニューシネマへと受けつがれ、
映画界はもとよりテレビの世界へも広がり、
映像世界ではもはや日常の
ひとコマになっているのだ。
現在でもタランティーノなどは、かなりゴダールの
影響を受けているように感じる。

だから、長年に渡ってその手の映像の洪水を
浴び受けてきた僕たちの世代が、
いまさらその原点を見て衝撃を受ける、
なんてわけはないのだ。
これはもう、どうしようもない。
ただ半世紀近くも前に、この映画を
リアルタイムで見た人が受けた
ショックは想像できる。
それを考えると、ちょっとうらやましくもある。
「この映画、当時すごかったんだろうなあ」
と、頭で考えて見るのと
「うわ、こんなの見たことない!すげえ!」
と、ハートで感じるのとでは天と地の差だ。

CG全盛の昨今、CGなどまだ夢だった時代の
映像革命に触れてみるのもいいかもしれない。


■個人的ハマリ度 ★★★(★5つが最高)


 

タイトル: 勝手にしやがれ

主演:ノルマンディ上陸作戦

【史上最大の作戦(映画)】

<1962年・アメリカ>
●監督/ケン・アナキン、ベルンハルト・ヴィッキ
●出演/ジョン・ウェイン、ヘンリー・フォンダ 他


まず今から40年以上前に、これほどの規模の映画
が作られていたことに驚く。
おそらく製作費も当時、史上最大規模だったこと
は間違いないだろう。

映画は、第二次世界大戦の象徴的な戦いである、
連合軍によるフランス、ノルマンディの上陸作戦
を多面的に描いていく。見ていて気づいたのは、
この映画には主役がいないということ。
確かにジョン・ウェインやヘンリー・フォンダな
ど、多数のスターが役として登場はするのだが、
彼らの心情が描かれることはないし、
誰かの視点で物語が進むこともない。
主役は人ではなく、あくまで
「ノルマンディ上陸作戦」そのものなのだ。

同じノルマンディ上陸作戦を描いた、
スピルバーグの「プライベート・ライアン」が、
ライアン二等兵の救出というテーマのもと、
登場人物の心の動きを中心に描いたのとは全く
対照的だ。(というより、これはスピルバーグ
がこの映画とは違うアプローチを試みた結果
だとは思うが)

しかし、どうしてここまでクールな描き方を
したんだろ?元々セミ・ドキュメンタリー的
なものを目指して作られた映画らしい。
戦争の記憶がまだまだ鮮明な時代に、
映画というメディアの中で、戦闘の正確な記録
を残そうとする動きがあったのかもしれない。
それでも3時間という長丁場を退屈せずに見れ
るのは、そのクールな視点が徹底しているからだ。

戦闘シーンを「プライベート・ライアン」と比べる
と、モノクロということもあって、映像的な
リアリティでは劣ると言わざるを得ない。
しかし、上空から冷徹な目で切り取った
ようなカメラ視点が生み出す、一切の感情移入
を許さない空気は、その分、戦争の寒々しさを
映し出しているように感じる。

見終わって、ぐったりと疲れた。
そう、この映画、派手なタイトルの割には、
中身はむしろ地味と言ってもいい。
だがその地味さゆえに、
見る者の意識に静かに、深く入り込んでくる。


■個人的ハマリ度 ★★★★(★5つが最高)


 

タイトル: 史上最大の作戦〈特別編〉

許すことの意味。

【氷点(映画)】

<1966年・日本>
●監督/山本薩夫
●出演/若尾文子、船越英二 他


いわずとしれた有名原作を映画化したもの。
とはいえ、僕は小説も未読で、本作で
はじめてその世界に触れた。

ある夫婦の幼い娘が何者かに殺される。
夫はその原因は妻の浮気にあると考え、妻への復讐
として犯人の子を引き取ることにする。
陽子と名づけられた娘は、明るく成長していく。
だが妻はある日、陽子の正体を知ることになる…

この設定がすごい。
犯人の娘を引き取る。
いくら浮気した妻へのあてつけとしても、
普通に考えてあり得ないことだ。
だが、画面に漂う重苦しい空気が、人間の業とも
言うべき暗部を映し出しているように感じ、
それも気にならなくなる。

陽子を常に見守る兄の徹を、若き日の山本圭が
演じているのだが、血の通わない妹を、ひとりの
男性として愛しながら、その葛藤に苦しむ姿を
好演している。
陽子の恋人役の津川雅彦も、なかなかの好男子ぶり。

映画は驚きの真実が明かされ、意外な形のラスト
を迎えるのだが、そこにあるのは悔恨の涙であり、
かすかな希望だ。
人が人を許すとはどういうことか。
そして何をもって救われたというのか。
コンパクトにまとめられた時間の中に、
色々なことを考えさせられる作品だ。


■個人的ハマリ度 ★★★(★5つが最高)
ジェネオン エンタテインメント
氷点


罪と罰の、終着点。

【晩鐘/上・下(本)】 

●著者 :乃南アサ
●出版社:双葉文庫(2005.05 発行)
●価格 :¥1,000 (上下巻とも)


母親を殺害された家族と、その犯人の家族、
ふたつの家族の姿を描いた風紋(上下)の続編。

風紋の感想は以下で。

http://ameblo.jp/katsuzi-junkie/
entry-10003490838.html#cbox

文庫本で4冊、計約2500ページにわたる物語
だったのだが、なんだか登場人物の人生の一部を
共に生きた気がして、読み終えて彼らと別れる
のが寂しいような感覚を覚えた。

事件から7年、母親を失った真裕子は家を出て、
都内のモデルハウスで、客を案内する職に
ついていた。
一方、加害者の子供である大輔と絵里は、
長崎の祖父母のもとに預けられ、
父母を知らずに育っていた。
しかし、ある事件をきっかけに、それぞれの
人生は、次第にその距離を縮め始める…

前作では、やや登場人物に薄っぺらさを感じたが、
本作では、ひとりひとりがしっかりと肉付けされ、
誰もが、生きた人間として動いている印象を受けた。

母が死んだのは、父と姉に責任があると考える
真裕子は、ふたりとの間に溝をつくり、
心の傷を埋められぬまま生きてきた。
しかし、事件を当初から追いかける、
新聞記者の建部との交流を通して、
少しずつ前を向くようになる。
一方、事件はもとより、父母の存在すら知らない
大輔は、体の弱い妹を守りながら、
やがて自らの血を意識するようになり、
そのルーツをたどろうとする。

「殺人」というものが、当事者のみならず、
その周囲の者を打ちのめし、殺していくものだと
いうことが、痛いほどの実感を伴って伝わってくる。
遺された者の苦しみを、ここまで掘り下げて
描いた小説もそうないだろう。
それにしても、大輔が最後に選択した道は、
あまりにも哀しく、胸のつぶれる思いだった。
この物語に答えなどない。
だとすると、大輔が出した結論にも、
さらに、その先があるはずだ。
何年先になってもいい。作者には物語の続きを
書いて、そして大輔を救ってやってほしい。
そう願わずにはいられない。


■個人的ハマリ度  ★★★★(★5つが最高)
乃南 アサ
晩鐘 (上)
乃南 アサ
晩鐘 (下)


空を飛ぶ理由。そこに空があるから、でOK?

【アビエイター(映画)】

<2004年・アメリカ>
●監督/マーティン・スコセッシ
●出演/レオナルド・ディカプリオ、ケイト・ブランシェット 他


「ギャング・オブ・ニューヨーク」のスコセッシ
監督とディカプリオが再びコンビを組んだ作品。
ギャング~と同じくアカデミー賞にノミネート
されたが、またも主要部門を受賞できなかった。

その理由は、見ればなんとなくわかる。
3時間近い大作にもかかわらず、
さすがに演出は手堅く、ダレ場もない。
ディカプリオも迫真の演技で、
本来の持ち味を存分に発揮している。
しかし、何かが足りない。
心にグーッと入り込んでくるものがないのだ。

父親の莫大な遺産を手にしたハワード・ヒューズは
その金を注ぎ込み、映画「地獄の天使」を監督する。
キャサリン・ヘップバーンなど数々の女優とも
浮き名を流す一方、航空会社の経営、自らが操縦桿
を握っての、飛行スピード記録の達成などで、
時代の寵児になっていく。しかしそんな彼を
次第に心の病がむしばんでいく…

映像的にも、当時の飛行機を忠実に再現したり、
ラピュタを思わせる空中での戦闘シーンなど、
見どころも多い。
なのに何だろう、見終わって感じたのは、
この主人公のヒューズがどういう人なのか、
もひとつわからないということだ。

アメリカでは有名な実在の人物らしいが、
日本人にはほとんどなじみがない。
予備知識があって見れば、
また印象は違ったかもしれない。
それと、なぜ彼がそれほどまでに空に、
飛行機にこだわるのかの背景となるものが
描かれていないので、その情熱に
いまひとつ共感できないのだ。
冒頭に母親と少年ヒューズの印象的な
やりとりがあるので、それが後に関係して
くるのかなと思っていたら、そうでもない。
またヒューズはドアノブを触れないほどの潔癖性
なのだが、そうなった理由もわからない。
まあ伝記映画だから、実際にそういう
人だったのだろうが、
映画的にはこの辺の味つけがほしいところだ。
ディカプリオの熱演が光るだけに
なんだかすごくもったいない気がしてしまった。


■個人的ハマリ度 ★★★(★5つが最高)
松竹
アビエイター プレミアム・エディション


あの岩まで、20分でいこう。

【運命を分けたザイル(映画)】

<2003年・イギリス>
●監督/ケヴィン・マクドナルド
●出演/ジョー・シンプソン、サイモン・イェーツ 他


実際に起きた冬山での遭難事故を描いた
ドキュメントタッチの作品。
ものすごい臨場感に、手に汗握って見た。

登山家のジョー・シンプソンとパートナーの
サイモン・イェーツはアンデス有数の氷壁の初登頂
に成功するが、その下山途中、猛吹雪に見舞われ、
足場が崩れたジョーは片足を骨折する。
イェーツは、なんとかジョーを降ろそうとするが、
滑り落ちたジョンは断がいに宙づりになってしまう。
全く身動きの取れなくなったイェーツは、
ふたりをむすぶザイルを切断する…

とにかく、一体どうやって撮ったんだという
ショットの連続に、息をのむ。
ザイルを切られたジョーが、深いクレバスに
落ちていくシーンは、一瞬目をつぶってしまった。
しかし本当の物語はここから始まる。
奇跡的に一命をとりとめたジョ-は、
自由のきかない足を引きづりながら、
はるか上にある、クレパスの出口に向かって
進んでいく。

一歩進んでは転び、苦痛に顔をゆがめるジョ-。
「あの岩まで、20分でたどり着こう」
そう言って、くじけそうになる自分を奮い立たせる。
以前マラソンランナーの君原健二さんが、
苦しくなった時は「次のあの電柱までは行こう」
と思って、走り続けたという話を聞いたことが
あるが、修羅場の中にある人間というのは、
同じようなことを思うものなんだなと感じた。
なんだか自分がジョーになって、
その苦行を味わっているような気になり、
いつのまにか、顔もゆがんでいた。(笑)

映画のところどころに、実際に遭難に会った
ふたりのインタビューがさしこまれ、
またナレーションも当人たちが行っているので、
全体のリアリティというか説得力が抜群なのだ。
果たしてジョーの運命はどうなるのか?
結果はぜひ、あなたの目で確かめてほしい。
人間の限界を超えた精神力には、魂を揺さぶられる
こ必至だ。


■個人的ハマリ度 ★★★★(★5つが最高)
ポニーキャニオン
運命を分けたザイル


さらなる「天」に向かって、進んでいく「才」能。

【決断力(本)】 

●著者 :羽生善治
●出版社:角川書店(2005.07 発行)
●価格 :¥720


子供の頃は、しょっちゅう近所の友達と
将棋盤を前に向き合っていたものだが、
考えると、ずいぶんと長い間将棋は
指していない。
テレビゲームのある暮らしが当たり前の
今の子供たちは、果たして将棋を
することがあるのだろうか。

羽生は誰が見ても、やはり天才と呼ぶしか
ない存在だ。中3で四段に昇進しプロとなり、
その後、19歳で初タイトルの竜王を獲得。
そして96年、名人、棋聖、王将など
史上初の7大タイトルを独占!
と、経歴は華々しいことこの上ない。
その羽生が将棋をどうとらえ、
どういった思考を持って対局に向かって
いるのか、以前から興味があった。

読んでみて思ったのは、案外、僕のような
凡人とも、考えていることにそれほど
差違はないということだ。
常人にはうかがい知れない哲学が聞けるのでは
と期待していた身には、多少肩透かしを食った
感もあったが、それでもやはりハッとさせられる
言葉がいくつもあった。例えば、

「情報は選ぶよりも、いかに捨てるかが重要」
「最先端の将棋を避けると、
 勝負から逃げることになる」
「勝負には、周りからの信用が大切。
 期待の風が後押ししてくれる」 など。

中でも一番勇気づけられたのは、次の言葉だ。

「報われないかもしれないところで、同じ情熱、
モチベーションを持ち続けるのは大変だが、
それこそが才能だと思っている。そしてそういう
人は、たとえ時間がかかっても、必ずいい結果を
残している」

はた目には頂点を極め、もはや目標が
ないのでは?とも思える羽生を支えているのは、
「将棋が好き」という単純明快な思いだ。
もっとおもしろい将棋、楽しい将棋が指したい。
そんな彼にとっては、今の立場でさえ、
ひとつの通過点に過ぎないのかもしれない。


■個人的ハマリ度  ★★★(★5つが最高)
羽生 善治
決断力


ヨン様の微笑みの裏側。

【マンガ 嫌韓流(本)】 

●著者 :山野車輪
●出版社:晋遊舎(2005.09 発行)
●価格 :¥1,000


「各出版社から、その過激すぎる内容で
出版拒否された問題作が、ついに解禁!」
といううたい文句で、ただ今話題の書。

またむやみに煽りの入ったものかと思って
いたら、意外にも客観的な視点を持った、
まともな内容だった。
過激というよりも、これまでネットや
他の書物で伝えられてきた事象を、マンガと
いうわかりやすいメディアを使って
うまくまとめた総集編といった印象だ。

冬ソナから始まった韓流ブームも
ピークは過ぎたとはいえ、映画やドラマなど
ひとつの文化として定着した感がある。
そこには、ヨン様の微笑みに象徴される、
フレンドリーで穏やかな日韓関係が見てとれる。

しかしその一方、靖国や教科書をめぐっての
根深い対立、竹島の領土問題など、両国間
には解決の糸口の見えない課題も山積みだ。
その根底にあるものを見抜くのに必要なのは、
正確な知識と多角的な情報ではないだろうか。

日韓関係の明日が不透明な現在、
ひとりひとりがその行き先を考え、
判断するための材料を持つべきだろう。
本書には驚愕の新事実!などはなく、
すでにさまざまな情報に触れてきた者にとっては、
もの足りない面もあるが、表からでは見えない、
もうひとつの日韓関係を知る入門編としては、
十分に読む価値はあるだろう。


■個人的ハマリ度  ★★★(★5つが最高)
山野 車輪
マンガ嫌韓流

声無き別れ。

【楢山節考(映画)】

<1983年・日本>
●監督/今村昌平
●出演/緒方拳、坂本スミ子 他


カンヌ映画祭でグランプリに輝いた作品。
(後に今村監督は「うなぎ」で二度目の
グランプリを受賞)
日本人なら一度は聞いたことがあるだろう
「おば捨て山」の話だ。

舞台は山奥の寒村。時代はわからないが、
おそらく数百年前だと思われる。
その村には、70歳を過ぎた老人は子に背負われて、
近くの楢山の奥深くに捨てられなければならない
という掟があった。
そして、ある母と息子が、まもなくその行を
迎えようとしていた…。

なんとも言えない重苦しい空気に、
見終わってホッと息をついた。
この手の、昔の村が舞台の作品を見ると
決まって、正体のわからない不安感に襲われる。
小さな村社会の中にうごめく、人間のエゴや情念に
あてられるとでも言うのだろうか。
この映画の中でも、餓えの為に泥棒をした一家に
村あげて凄惨な仕打ちを加えるといった、
正視にたえないようなシーンもあって、
とても穏やかな気持ちではいられない。
山に親を捨てるのだって、その目的は口減らしだ。

坂本スミ子は、この役のために歯を抜いたのだとか。
当時はまだそれほどの年ではなかったと思うが、
もう老婆にしか見えない怪演だ。
その老いた母を背負い、延々と山道を登る、
緒方拳も大変だっただろう。
このクライマックス部分はほとんど台詞がない。
なぜなら、楢山に行く時には、老人は口を聞いては
ならないという決まりがあるからだ。
しかしそれゆえに、言葉ではなく
目で語りあう別れが胸に迫ってくる。

惜しむらくは、母と子のこれまでの関係がわかる
シーンやエピソードがないことだ。
母は子に何を教え、育ててきたのか。
子は母をどう思い、暮らしてきたのか。
それがあれば、見る者の感情移入を誘い、
クライマックスでは、さらに大きな感動を
生んだことだろう。


■個人的ハマリ度 ★★★(★5つが最高)
東映
楢山節考


愛の謎解き。

【ロング・エンゲージメント(映画)】

<2004年・フランス>
●監督/ジャン・ピエール・ジュネ
●出演/オドレイ・トトゥ、ガスパール・ウリエル 他


あの「アメリ」の監督と主演女優が再びコンビを
組んだ!という宣伝コピーが目立った作品。
ただこれ、たしかにアメリのようなファンタジック
な演出も顔をのぞかせるけど、
基本的に戦争がテーマだけに、かなりハードな
描写の連続で、予備知識なしで見ると、
そのギャップに驚くかも。

戦地に赴いた婚約者が亡くなったと聞かされるが、
信じられず、戦場で何が起きたかを調べようとする
マチルド。映画は主人公である彼女の心の動きに
沿って展開される一方、戦場での婚約者の様子も
交互に描かれる。
生き残った者を訪ね、さまざまな証言を検証
するにつれて、徐々に浮かび上がってくる真相…。

もったいないなあ…というのが率直な感想。
画面はきれいだし、構成もテンポがダレる
ところもあるけど、工夫されていて見れる。
俳優たちの演技もいい。
だけど、婚約者がどうなったか?
の真実へと迫る道筋が、どうもわかりにくい。
登場人物が多いのと、名前が覚えられないという
のもあるけど、なんだかあまり整理されていない
ようで、すっと頭に入ってこないのだ。
あれが、ああなって、こうなっって…
ああ、そうだったのか!!っていうのがないので、
ラストの感動にも、もひとつ盛り上がるものが
ないのだ。この物語はある種のミステリーなだけに、
ここが弱いと、説得力がなくなってしまう。

それにしても主演のオドレイ・トトゥって、
不思議な存在感がある。
少女のように見える瞬間もあれば、
経験を重ねた、したたかな女にも見える。
「アメリ」の成功も、彼女のこの神秘的な魅力
あってのものだったのだろう。


■個人的ハマリ度 ★★★(★5つが最高)
ワーナー・ホーム・ビデオ
ロング・エンゲージメント 特別版