活字 & 映画ジャンキーのおたけび! -10ページ目

プロデューサーは、クリエイター。

【映画道楽】 

●著者 :鈴木敏夫
●出版社:ぴあ(2005.04 発行)
●価格 :¥1,575


いまやスタジオジブリの社長にして、宮崎駿作品の
すべてをプロデュースする鈴木敏夫氏が、
その生い立ちにはじまり、映画への思い、
宮崎駿との出会い、そしてプロデューサーの仕事
まで、幅広く語りおろしている。

鈴木さんといえば、映画の記者会見などで、
宮崎監督の隣で、眼鏡に口ひげをたくわえ、
親しみやすい笑顔でいる姿が思い浮かぶ。
口ベタで気難しい宮崎監督に変わって、
弁説もさわやかに、映画のコンセプトやねらいを
語るその様子は、まさに有能なプロデューサー
そのものに見える。

本書を読むと、そのことがまちがいでなく
それ以上に、彼が本物のプロデューサーである
ことに気づかされる。
中に鈴木さん手書きの映画の制作スケジュール表が
掲載されているのだが、細部の細部まで漏れが
ないよう、入念に計算されたその一覧を
目にすると、プロデューサーがやらねばならない
膨大な仕事量が想像でき、思わずうなってしまう。

しかし鈴木さんが行うのは、そのような制作管理面
だけではない。パンフレットの構成を練り、
宣伝コピーを考え、予告編の絵コンテまで
切ってしまう。(これがけっこううまい!)
なんと「ハウルの動く城」のタイトルロゴは、
鈴木さんの手によるものだとか。
もともと「アニメージュ」の編集長出身という事も
あるのだろう。プロデューサー業の全てのベースに
あるのは、多分にクリエイティブな視点なのだ。

印象深い言葉があった。
宮崎監督が再三口にするのが、
「今の若いアニメーターは
動きがかけなくなった」。
例えば、ごはんを口にかき込むシーンが描けない。
理由は、そんな経験がないから。
肉体が動く記憶や経験を持たない人間が増えてる
ことは、アニメの未来にも深刻な影響を
与えるだろうと鈴木さんは述べている。

単なるアニメ、映画の世界だけにとどまらず、
世界から見た日本文化、そして日本人とは?という
点についても考えさせられる内容になっていて、
読みごたえがある。


■個人的ハマリ度  ★★★★(★5つが最高)


鈴木 敏夫

映画道楽



バーチャルの中の、リアル。

【女子アナ失格】 

●著者 :薮本雅子
●出版社:新潮社(2005.05 発行)
●価格 :¥1,365


少々過激なタイトルにつられて読んでみた。
著者は元日テレの女子アナ。
そういえばそんな名前のアナウンサーいたなあと
いう程度の認識で、顔写真を見ても、
入社数年目に、他の女子アナ2名と「DORA」
というユニットを組んでCDデビューも果たして
いたというくだりを読んでも、ああ、あったな…
という感じで、この人個人の特長などは、
まるで出てこない。
何だかその事が「女子アナ」というものを象徴
してるみたいで、おかしくなった。
テレビ画面に映っているのは、薮本雅子という
個のパーソナリティではなく、あくまで
女子アナという鎧をかぶった仮の姿なのだ。

前半はまさに女子アナとしてのピークを
迎えるまでの、彼女の生い立ちが書かれている。
驚いたのは、アナウンサーになる以前、
中学時代にアミューズと契約し、アイドルとして
デビューしていることだ。
しかしストレスから拒食と過食をくり返し、
夢やぶれて帰郷する。
その後、女優の夢を捨て切れず、
再び東京を目指し、早稲田大学に合格。
プロダクションに入って、
リポーターの仕事をしながら、方向転換し
今度は女子アナを目指す。
すると、すんなりと日本テレビに内定。
「DORA」を結成し、あっという間に
アイドルアナとして人気者に!
と、なんだかんだいって、この人、
やりたいことは全部実現しているのだ。
運がいいのか、
本人のパワーが道を引き寄せるのか。
一応「当時、そんな自分の姿に迷っていた」という
記述もあるのだが、やっかみもあって、
「ほんとかよ?」とひとり毒づいていた。(笑)

しかし後半は、ガラリと空気が変わる。
アナウンサーから報道局に異動した作者は、
ハンセン病と出会い、
その報道にのめり込んでいく。
忙しい合間をぬって、
施設を訪ね、患者に話を聞き、
局へその報道の必要性を訴えていく。
やがてハンセン病をめぐる訴訟は、世論を巻き込み
国を動かす大事件へと広がっていく。
そして、裁判は国の敗訴の形で幕を閉じる。
と、ここで作者はまたしても驚きの行動に出る。
仕事先で知り合った自衛官と交際わずか
2ヶ月で結婚、日テレを退職したのだ。
現在は2児の母として育児に追われながら、
次の目標を探しているのだという。

うーん、読み通してみて、
そのジェットコースターのような道のりは
十分おもしろかったのだが、
この人がどういう人なのかについては、
やっぱりよくわからなかった。
もしかすると、画面の中の彼女ら女子アナに漂う、
正体不明のフワフワとしたバーチャル感の
中にこそ、案外ほんとのリアルが潜んで
いるのかもしれない。


■個人的ハマリ度  ★★★(★5つが最高)


藪本 雅子

女子アナ失格



おきなわ or OKINAWA?

【沖縄論】 

●著者 :小林よしのり
●出版社:小学館(2005.06 発行)
●価格 :¥1,680


「戦争論」「台湾論」に続く、
新ゴ-マニズム宣言スペシャルの第3弾。

まず総407ページのボリュームに圧倒される。
もちろん、中身もものすごく濃い、
ひとコマひとコマにまで、作者の思いが
ぬりこめられているような感じで、
読み終わると、ぐったりと疲れる。
読むのにこれほどエネルギーが必要なのは
この人の本ぐらいかもしれない。
しかしそれは決してイヤなものではない、
脳に、そして心に心地いい疲れだ。

沖縄と言うと、すぐに浮かぶのはやはり
リゾートとしてのきらびやかな顔である。
もちろん沖縄にアジア最大の米軍基地があり、
そのことが度々物議をかもしてきたことも
知ってはいるが、そのことが最初にこないのは、
現実に日本が国際紛争に巻き込まれている
今においても、どこか平和ボケの状態が
続いているからかもしれない。

現在の沖縄から始まった物語は、
琉球王朝の成り立ちへとさかのぼり、
沖縄の戦後史へと帰ってくる。
印象深かったのは、
沖縄が抱えるふたつの矛盾だ。
ひとつは、米軍基地の存在を忌み嫌いながらも、
基地に経済的に依存せざるをえない状況。
もうひとつは、本土との一体化を望みながらも、
かつて見捨てられたという疎外感からくる、
じくじたる思い。
この感情は沖縄が日本に返還されて数十年経つ
現在でも残っており、本土からの移住者には
素直に歓迎の手をあげられない者も多いという。
お年寄りの中には、日本政府よりも、
長年接してきたアメリカに親しみを感じている
人もいるとか。
沖縄の過去と現在、問題点など、これまで
知っているようで知らなかった、さまざまな側面を
理解するには、格好の一冊だろう。

しかし不満点もないではない。
作者自身も余裕がなかったと言っているが、
沖縄を語るに避けては通れない「沖縄戦」の描写が
なかったのは、片手落ちと言われても
仕方ないのではないか。
それと「戦争論」「台湾論」に比べて、
漫画的なカタルシスという点では弱い。
全体の構成に一貫したものがあまり感じられず、
一本の線ではなく、
テーマが点在しているような印象なのだ。
もちろん本書は、世間一般の漫画とは種類の違う
ものだが、漫画という表現手段を用いている以上、
その中に入りこみ、胸の高鳴りを抑えられない。
そんな瞬間が欲しいものだ。
これは、沖縄戦が描かれていないという事とも
つながっているのかもしれない。

いずれにしろ、日本を巡る安全保障が揺らいでいる
今だからこそ、読む価値がある本であることは
まちがいない。


■個人的ハマリ度  ★★★(★5つが最高)


小林 よしのり

新ゴーマニズム宣言SPECIAL沖縄論



誰もが、自分のドラマを生きている。

【友がみな我よりえらく見える日は】 

●著者 :上原隆
●出版社:幻冬社アウトロ-文庫(1999.12 発行)
●価格 :¥520


アパートから転落して、
両目を失明した市役所職員。
ホームレス同然の暮らしを送る、芥川賞作家。
容姿にコンプレックスを持ち、45年間一度も
男性とつきあったことのない女性…。
本書は、そんなさまざまな人物の日常生活を
つづったノンフィクションだ。

無理矢理にドラマチックに描こうというところが
全くないのが、読んでいて気持ちいい。
作者の目線は、常に対象とする
人物と同じ高さにある。
何かを教え諭すでもなく、同情するわけでもない。
ただ一人の人間として、その人と向かい合い、
話を聞き、暮らしを追う。
この一見傍観者のような
視点でつづられたドラマは、あたかも自分自身が
登場人物のすぐ横にいるような、
読んでいて不思議な感覚を覚える。

何気なく過ぎてゆく暮らしの中にも、
キラリとアクセントのように光る瞬間はある。
例えば、上記の45年間、男とつきあったことのない
女性は、45歳の誕生日の記念に
ヌード写真を撮ろうと思いつき、
自宅でカメラマンに撮影してもらう。
できあがった写真を見て「きれいだ」と思い、
以来、仕事中でもふと写真のことを思い出すと、
小さな幸せを感じると語っている。

誰もが悩み、傷つき、それでも毎日を生きている。
特に語ることのないように思える自分の人生も、
これはこれで、案外おもしろい
ものなのかもしれない。
読み終えて、周りの人、そして自分が
ちょっとだけ愛しくなるような、そんな本だ。


■個人的ハマリ度  ★★★★(★5つが最高)


上原 隆

友がみな我よりえらく見える日は



うそつきは、社会のはじまり?

【世間のウソ】 

●著者 :日垣隆
●出版社:新潮社(2005.01 発行)
●価格 :¥714


宝くじで1等が当たる確率よりも、
交通事故で死んだり、大怪我する確率の方が
9万2,651倍も高い。
そう聞いたら、あなたはどう思うだろうか?
「えーうそでしょ!?」と否定するか、
「ああ、そんなもんだろうな」と納得するか。
いずれにしろ、この数字は事実である。
根拠は本書の中にデータとして記されてある。

僕自身は宝くじはジャンボのみをたまに買うが
それも10枚と決めている。
本の中にもあるが、ジャンボの1等くじは
1ユニット(1千万本)に1本しか含まれない。
つまり当選の確率は1千万分の1、
人口約1200万人の東京都民が1人1枚ずつ
買ったとしても、当たるのはたった1.2人!
まあこれが10枚買うと、100万分の1、100枚
買うと10万分の1と、
確率は高くなってはいくのだが、感覚的なもの
としては大差ないように思う。

以前、家族や友人、知人を総動員して
計2000枚ほど買ったことがあるのだが、
(もちろん当選したら賞金は山分けということで)
その時当たった最高が、
なんと4等の1万円!だったということもあり、
当選のために枚数を買うというやり方には、
限り無く懐疑的なのだ。
1枚でも1000枚でも、当たる時は当たる!
と、なんだか冷めた目で見てるようでいて、
ジャンボ発売中!なるノボリを見ると、
ついフラフラと立ち寄ってしまうのもまた事実なのだが…。

なんだか宝くじ談義になってしまったのは、
個人的には本書で一番興味深かったのが、
この項目だからだ。(結局当てる気満々なんかい!)
他にも
●自殺報道のウソ
●安全性のウソ
●男女のウソ
●性善説のウソ
●児童虐待のウソ
など、どれもほうっとうなづける内容が満載。
世間に浸透している事実の裏側に潜む真実を、
説得力あふれる裏付けとともに、
あぶり出している。
常識と思えることでも、違う角度から眺めると、
案外違った顔が見えてくる。
自分なりの目を養うことの大切さを、
あらためて感じた。


■個人的ハマリ度  ★★★★(★5つが最高)


著者: 日垣 隆

タイトル: 世間のウソ

秘密は、物流センターにあり。

【アマゾン・ドット・コムの光と影】 

●著者 :横田増生
●出版社:情報センター出版局(2005.04 発行)
●価格 :¥1,680


日頃からアマゾンにお世話になっている
僕にとって、その仕組みがどうなって
いるのか非常に興味があるところだった。
どうして24時間以内に発送できるのか?
なぜ1,500円以上は送料無料にできるのか

著者は元物流業界紙の編集長。
アマゾンの秘密を探るべく、東京近郊にある
物流センターにアルバイトとして潜入。
約半年間勤務し、その実態を赤裸々に
つづったのが、本書である。

アマゾンの心臓部というべき物流センター、
まさに現場の中の現場のルポだけに、
リアリティ抜群で迫力がある。
驚いたのは、IT産業の申し子のようなイメージの
アマゾンを支えているのが、かなり
アナログチックな労働にあるということだ。
1、2階合わせて1万5千平方メートルの広大な
物流センターで働いているのは、
アルバイトが大半の常時約200人。
彼らは時給900円で、約100万点ある本やCD・DVD
などの商品から、目的の物をピッキング
(商品を探して抜き出す作業)していく。
著者は1分に3册の本のピッキングを命じられるが、
はじめての作業は1分1.2册に終わる。
さまざまなハプニングに一喜一憂する著者の
内面描写がおもしろい。
またアルバイト仲間のキャラも多彩で、
ある種の人間ドラマとしても楽しめる。

もうひとつ驚いたのは、アマゾンの
徹底した秘密主義だ。
これだけメジャーな存在になった今でも、
アマゾンはマスコミの取材をほとんど受けず、
売り上げも公表していない。
一説には500億を超えると言われる数字も
推定の域を出ない。
このあたりにもっと深く切り込んでくれていれば、
さらに価値ある内容になった気もするが、
先方のガードの高さに
そうもいかなかったのだろう。
それでもネット書店の現状と未来を占うには
格好の一冊にあることは間違いない。


■個人的ハマリ度  ★★★★(★5つが最高)
著者: 横田 増生
タイトル: アマゾン・ドット・コムの光と影—潜入ルポ

読んだだけでは、お金は貯まりませんが…

【さおだけ屋はなぜ潰れないのか】 

●著者 :山田真哉
●出版社:光文社(2005.02 発行)
●価格 :¥735


新書ではここのところ一番の売れ行きの本。
著者はまだ20代後半の公認会計士。
この人、以前には「女子大生会計士の事件簿」って
いう女子大生が主人公の、ミステリー仕立てて、
会計のイロハを覚えるって本を出してて、
これもベストセラーになってるんだよね。
さすが会計士だけあって、人がどういうものに
お金を落とすか、よく心得てらっしゃる。

昔からの数学アレルギーで、そのせいかどうか、
今でもまるで会計という観念のない、ざる勘定の
生活を送っている僕でも、興味深く読めた。
副題に「身近な疑問からはじめる会計学」と
ある通り、ほんとに「そういえば不思議だよな」と
感じることを題材に、わかりやすくそのしくみを
説いている。

例えば、題名になっている
さおだけ屋のこと以外にも、
●住宅街にある高級フランス料理店が
 なぜやっていけるのか?
●ワリカンの支払い役になると得をする。
●麻雀ではトップではなく2番手をねらうべき。
●商品を完売したのに怒られたのはなぜ?
 など、心そそられる内容が揃っている。

個人的には、広告についてのからくりが、
ニヤリとさせられ、一番おもしろかった。

【50人にひとりが無料!
キャッシュバックキャンペーン実施中】

上記のキャッチコピーの真意がわかる人は、
「数字のセンス」がある人らしいのだが、
どうだろうか?

文章もわかりやすく、誰でも抵抗なく、
スイスイと読み進められる。
読み終えて、今日から家計簿でもつけてみるかな
と思った。たぶん思っただけで終わるだろうけど。(笑)


■個人的ハマリ度  ★★★★(★5つが最高)


著者: 山田 真哉

タイトル: さおだけ屋はなぜ潰れないのか? 身近な疑問からはじめる会計学

むかしむかしの、いまの話。

【夕凪の街桜の国】 

●著者 :こうの史代
●出版社:双葉社(2004.10 発行)
●価格 :¥840


手に入れたのは去年だが、それ以来
何度か折に触れて読み返している。

物語は3つの短編から構成されている。
昭和30年、原爆投下から10年後の広島に生きる、
ひとりの被爆女性を描いた「夕凪の街」と、
それとシンクロする現代を舞台にした
「桜の国」2編。
全体でわずか100ページほどの本だが、
そこには、分量では計れない濃密な世界が
待っている。読むのにこれほど力のいる
作品も珍しい。しかし、かみしめるように何
度も味わいたい。そう思える作品だ。

繊細で、どこか牧歌的な雰囲気の絵は、
一見のどかで、原爆というテーマに
そぐわないものに見える。
ストーリーの展開も日常の暮らしを
淡々と描いていて、
どこにも原爆の匂いなど感じさせない。
しかし、それはふいに姿を現すのだ。

戦争や原爆の直接の描写など一切なくとも、
これほどまでにリアリティを持って、
その恐ろしさを表現できることに驚嘆した。
命のつながり、時のつながり、
その裏にあった、忘れてはならない悲しみ。
読者はそれを、キャラの告白や演説文ではなく、
物語全体から、自ずと読み取ることになる。

広島出身の作者のこうのさんは
この作品を描くにあたり、はじめて原爆と
正面から向き合ったのだという。
こういうものをテーマに選び、描き切る難しさは
並大抵のものではないだろう。
しかしその労力は結果としてきちんと出ている。
誌面から立ち上がってくる静かな熱のような
ものに圧倒され、ひとコマすら見落とせない。
読んでいてそんな気になるのだ。

漫画というメディアが持つ底知れぬ力、
可能性を感じるとともに、
思いを込めて、ごまかさず、持てる力を
すべて出し切った仕事は、必ず人の心に届く。
そんな勇気をももらえる一冊である。


■個人的ハマリ度  ★★★★★(★5つが最高)
著者: こうの 史代
タイトル: 夕凪の街桜の国

末永くお幸せに

【ブスの瞳に恋してる】 

●著者 :鈴木おさむ
●出版社:マガジンハウス(2004.09 発行)
●価格 :¥1050


あの森三中の大島美幸が結婚した!
相手は、放送作家の鈴木おさむ。
「スマスマ」や「めちゃイケ」などの人気番組
を担当する売れっ子だ。
本書はその鈴木おさむが、大島と結婚に至った
経緯と、その衝撃?の結婚生活をつづった
エッセイである。

こわいもの見たさ(笑)に読んでみたが、
まーよくここまで書けるなあというぐらい、
あけっぴろげな告白ぶり。
交際0日での結婚。迎えた初夜でリアクションを
連発する妻。赤ちゃんプレイに走る夫。
ウンコ宣言をしてトイレに向かう妻、などなど。
読んでて何度か爆笑してしまった。
さすがは芸人と作家の夫婦。「面白いこと」を
人生の真義にしてきたふたりである。

しかしそんな冗談半分のような日々を送りつつも、
夫はサメの出る海のロケから無事生還した妻を
抱きしめたり、妻は夫が仕事で連日朝帰りになる
寂しさから、トイレに閉じこもり泣いたりと、
ドラマチックなエピソードにも事欠かない。

全編はやい話がおノロケ。放送作家らしく、
そのタッチは軽く、サービス精神にあふれている。
が、その根底に流れているのは、案外マジな「愛」
であり、出会えたことへの「感謝」だ。

「POPEYE」の連載をまとめたものということで、
週刊でちょっとずつ読むにはいいが、単行本で
一気に読むと、さすがに後半は疲れてくる。
濃い~芸を、長時間続けて見た時のような感じだ。

読み終えて本を閉じ、ふと思った。
「大島って、もしかしてかわいいかも」


■個人的ハマリ度  ★★★(★5つが最高)


著者: 鈴木 おさむ

タイトル: ブスの瞳に恋してる

闇の中の光

【暗いところで待ち合わせ】 

●著者 :乙一
●出版社:幻冬社(2002.04 発行)
●価格 :¥520


乙一は短編集の「ZOO」を読んだだけだったが、
その時も、なんと多彩な作品世界を持った作家
だろうと驚いたことがある。
で、今回は長編(正確には中編かな)の本書を
手にした。

事件から逃れるために、アキヒロはある家に
忍び込む。そこには目の見えないミチルという
少女がひとりで暮らしていた。
ミチルはアキヒロの気配を感じながらも、
身を守るために気づかない振りをする。
こうして息のつまるような同棲が始まる…。

この設定を思いついた時点で、作者はいける!
という感触をつかんだのではないだろうか。
ありそうでないこの設定は、それほど魅力的だ。
とはいえ、読み始めた時はいささか無理がある
ように感じたのも事実。それが読み進むに
つれて「あってもおかしくないな」と変化
していったのは、作者の筆の力に他ならない。

互いにその存在を意識しながらも、決して
言葉を交わさないふたりだが、時間とともに、
その距離はしだいに縮まっていく。
このあたりの心理描写は絶妙だ。
そして目の見えないミチルのために、
アヒキロがある決意をするところでは、
目頭がアツくなるとともに、ヒューマンな
味を見せる乙一の技量に感嘆。
意外などんでん返しなど、
ミステリーのしての仕掛けも十分で
二重にも三重にも楽しめる内容になっている。

「ZOO」を読んだ時も感じたことだが、
この人は現実と虚構の境ギリギリのところで、
物語を展開させる。
一見ファンタジックな設定にも、
奇妙なリアリティを感じるのは、そのためだ。
誰にもマネのできない世界、タッチ。
乙一の作品には確実にそれが備わっている。
まだ20代の作家のこれからが楽しみだ。


■個人的ハマリ度  ★★★★(★5つが最高)
著者: 乙一
タイトル: 暗いところで待ち合わせ