美しき日本、日本人。 | 活字 & 映画ジャンキーのおたけび!

美しき日本、日本人。

【蝉しぐれ(映画)】

<2005年・日本>
●監督/黒土三男
●出演/市川染五郎、木村佳乃  他


「たそがれ清兵衛」「隠し剣 鬼の爪」など、
このところ映画化が相次ぐ、藤沢周平作品。
その最高傑作と言われるのが本作だ。

下級武士の家に生まれた牧文四郎は、
実直な父を尊敬して暮らしていたが、
武家の派閥争いに巻き込まれた父は、
切腹の刑に処せられる。
そんな折、互いに心寄せる隣家の娘、
ふくが、想いを伝えられぬまま、
江戸へと旅立ってしまう。
やがて青年へと成長した文四郎に、
非情な命令が下される。
その命の主は、かつて父を死に追いやった
人物だった…。

雪景色や清流、青空とコントラストを
描く稜線、田畑を染める夕陽など、
四季折々の日本の風景が盛り込まれた映像が、
本当に美しい。
そんな中、繰り広げられる人々の物語。
登場人物はセリフは控えめながら、
その表情が心の内を語りかけてくる。
きっと、これが藤沢周平の世界に違いない。
監督の黒土三男は、この映画の前に、
NHKのドラマ版の脚本も手掛けている。
よほど、この作品に惹かれるものがあったんだろう。
(関係ないけど、あの長渕剛のヒットドラマ
「とんぼ」も彼の脚本だったりする)

主演の市川染五郎は、歌舞伎俳優だけあって、
立ち振るまいや太刀さばきなど、
さすが堂に入ったもので、
凛とした存在感を放っている。
父親役の緒方拳も、いぶし銀の存在感。
また木村佳乃が、こんなに
着物姿が似合うとは思わなかった。
ただ、友人役の今田耕治だけは、
そこだけコントみたいで浮いていた。(笑)

親子の絆や友情など、
いくつものテーマがからんでいるけど、
その主軸となるのは、文四郎とふくとの恋だ。
年月を経て、意外な形でふたりが再会する場面。
交錯する視線が、熱くもせつない。
ラストのふたりのやりとりは、
思わずセリフをメモしたくなるほどの名シーンだ。
「日本男児、やまとなでしこ、ここにあり!」
と叫びたくなった。

こういう映画に心打たれるようになったのは、
自分が年を取ったからなのか、
それとも、どこかに残っている日本人としての
DNAが、時代とともに失われてしまった物語に
共鳴するからなのだろうか。
今度はぜひ、原作も読んでみよう。


■個人的ハマリ度 ★★★★(★5つが最高)
ジェネオン エンタテインメント
蝉しぐれ プレミアム・エディション