誰でも一本の映画は撮れる。 | 活字 & 映画ジャンキーのおたけび!

誰でも一本の映画は撮れる。

【普通の人々(映画)】

<1980年・アメリカ>
●監督/ロバート・レッドフォード
●出演/ドナルド・サザーランド、ティモシー・ハットン 他


ロバート・レッドフォードの監督デビュー作にして、
いきなりのオスカーをもたらした名作。
ずいぶん昔に見た記憶はあるのだが、
どんな内容だったか、ほとんど覚えていなかった。
今回あらためて見て思ったのは、
これはある程度、年齢を重ねた者の方が、
感じ得る映画だろうなということだ。

一見なんの問題もないように見える、
ありふれた一家は、実はある闇を抱えていた。
長男がボート事故で亡くなり、
同じ事故で助かった次男は、罪の意識にさいなまれて
自殺未遂を図るなど、精神を病んでしまっていた。
父と母は、次男に気を配りながら、
自分たちの本心を隠しながら暮らしていた。
そして家族の間のひずみは、
次第に大きく、深くなっていく…。

序盤は、これといって何も起きない。
平坦な展開が続き、見るのに集中力がいるが、
次第に過去に起った事件、そして家族の間に
見え隠れする真意がわかってくるにつれて、
何ともいえない緊張感に襲われた。
表面をとりつくろった親子の会話、
笑っていても、うつろなままの次男の目、
静けさに包まれた映像の下でうごめく、
それらの狂気が、見る者の胸を息苦しくさせる。
そして、追いつめられた次男が、
カウンセラーを前に、誰にも見せなかった心の声を、
一気にぶちまけるシーンは、それまでのタメが
あった分、鳥肌が立つ思いだった。
安易なハッピーエンドにしていないのも、
この映画ではかえって納得できる。

こういった繊細な映画は演出が極めて重要だが、
レッドフォードは、監督第1作にして、
すでに抜群の冴えを見せている。
名優としての長い歩みは、
知らず知らずに映画の息遣いを、
その身に宿らせていたのだろう。

「誰でも一冊の本は書ける」
よく聞く言葉だが、それでいくと、
どの人生にも、一本の映画になりうる
ドラマが必ず潜んでいる。
そのことを、この映画のタイトルは物語っている。


■個人的ハマリ度 ★★★★(★5つが最高)
パラマウント・ホーム・エンタテインメント・ジャパン
普通の人々