終着駅に、光はあるか。 | 活字 & 映画ジャンキーのおたけび!

終着駅に、光はあるか。

【ミッドナイト・エクスレス(映画)】

<1978年、アメリカ>
●監督/アラン・パーカー
●出演/ブラッド・デイビス、アイリーン・ミラクル 他


なんだか、いやに尾を引く映画だ。
ひとことで言えば「脱獄もの」なのだが、
「大脱走」や「ショーシャンクの空に」といった
他の同ジャンル作品と決定的に違うのは、
この映画が実話を元にしているという点だ。
それだけに、全編に重苦しい空気が漂う。

主人公のアメリカ青年は、トルコから
アメリカへの帰国時、飛行機に乗り込もうとした
ところで麻薬所持で逮捕、
トルコの刑務所に収監される。
異国の閉ざされた世界で、何とか数年間の
服役期間を終えて出所しようとしていた彼に
下されたのは、前回の判決を破棄し、新たに
懲役30年を課すという信じがたいものだった。
青年は絶望の淵で、何とか脱出を試みる…

実際に麻薬を持って出ようとしていたことは
事実なのだから、自業自得といえばその通りなの
だが、それでも突然、懲役30年をプラス
される理由にはならない。
この判決には、当時のトルコの麻薬事情、そして
アメリカとの間の政治的なかけひきとして
利用されたという背景があるらしい。

言葉の壁に加えて、ひとクセもふたクセも
ある囚人たち、そして横暴きわまりない刑務官。
異国の地で囚われの身となった者の、
いいようのない不安が、画面からにじみ出ている。

「ミッドナイト・エクスレス」とは、
現地で「脱獄」を意味する隠語なのだとか。
余談だが、あの沢木耕太郎の名著「深夜特急」は
この作品を見た作者が、自分も旅先であの主人公
のようになっていたかもしれない、
という戦慄を覚えたのが、執筆のきっかけで、
タイトルもこの映画から取ったと、以前書いていた。

命がけの脱獄を試みた主人公は、
果たして光を見ることができるのか。
この映画には先に挙げた脱獄もののような
爽快感はない。しかしまちがいなく、
見た者の記憶に長く、深くとどまる。


■個人的ハマリ度 ★★★★(★5つが最高)
ソニー・ピクチャーズエンタテインメント
ミッドナイト・エクスプレス