S(少し)、F(不思議)な、家族の物語。 | 活字 & 映画ジャンキーのおたけび!

S(少し)、F(不思議)な、家族の物語。

【凍りのくじら(本)】 

●著者 :辻村深月
●出版社:講談社ノベルス(2005.11 発行)
●価格 :¥1,040


あの藤子・F・不二雄は、
SFを【サイエンス・フィクション】でなく、
【S(少し)、F(不思議)】と捉えて、
その通り、幾つもの少し不思議な物語を紡ぎ出した。
この小説には、その藤子・F・不二雄の代表作である
「ドラえもん」のエッセンスが各章に盛り込まれ、
サブタイトルも「どこでもドア」「カワイソメダル」
「どくさいスイッチ」など、秘密道具の名前に
なっている。

高校生の芦沢理帆子は、入院中の母とふたり暮し。
藤子・F・不二雄を愛するカメラマンの父・光は
5年前に失踪したまま、行方不明になっていた。
そんな理帆子の前に、別所あきらという一人の
青年が現れる。彼との交流を通して、傷ついた
理帆子の心は、少しずつ癒されていくのだが…

繊細で透明感あふれる文章が、心地いい。
心理描写も巧みで、主人公、理帆子の心の起伏が
手に取るように伝わってくる。
ドラえもんの秘密道具、そして藤子作品の
世界観との絡ませ方もうまい。
そして、読み終わってはじめて気づくのだ。
そうか、これはやっぱり、
S(少し)、F(不思議)なんだ、と。

ただタイトルについては、ちょっと?
読み通した時の印象と、タイトルが結びつかない。
中でそれについての説明はあるんだけど、
ここまでドラえもん的エッセンスで通すなら、
タイトルもそれっぽい方が良かったのでは。

最後に参考資料がこう挙げられている。

「ドラえもん」全45巻
「大長編ドラえもん」
及び、そこに流れる哲学と優しさの全て。

作者、よっぽどドラえもんが好きなんだろうなあと
同じ藤子ファンとして、なんだかうれしかった。
今回はじめて読んだ作家だけど、
この、やわらかくも鋭い感性には今後も注目したい。


■個人的ハマリ度  ★★★★(★5つが最高)
辻村 深月
凍りのくじら