ピッチを駆けぬける夢。 | 活字 & 映画ジャンキーのおたけび!

ピッチを駆けぬける夢。

【たったひとりのワールドカップ 三浦知良、1700日の闘い(本)】 

●著者 :一志治夫
●出版社:幻冬舎(1998.8 発行)
●価格 :¥560


以前に一度読んでいたが、
W杯開催年ということもあり、再読。
ドーハの悲劇から、セリヘAへの移籍、Jリーグ得点王、
ワールドカップ最終予選突破、
そして告げられた代表落選…。
本書はその激動の日々のカズの心の軌跡を、
彼へのインタビューを中心にまとめたものだ。

今年6月に開催されるドイツW杯、そのメンバーに
カズの名前が入る事はほぼない。
年齢的なことを考慮すれば、彼は一度もW杯のピッチ
に立つことなく、選手生活を終えることになるだろう。
日本代表のユニホームを着て、W杯に出ることを
サッカー人生最大の目標としてきた男が、
その夢を実現することができないというのは、
なんとも寂しい。

そしてそんなカズを語るに、決して忘れられないのが
フランスW杯直前での代表落ちの一件だ。
フランスの隣国、スイスでの合宿中に会見を
開いた岡田監督の口から
「外れるのはカズ、三浦カズ…」の言葉を聞いた時の
衝撃は今も残っている。
個人的には、あそこまで連れていきながら、
最後の最後にカズを切った岡田監督の非礼は許せない。
たしかに選ぶ立場の監督にも苦悩はあっただろう。
戦術に合わなかったということかもしれない。
しかしW杯は、勝つことにだけ意味があるのではない。
みんな、そこに「夢」を見たいのだ。
素晴らしいプレー、劇的な試合展開、
そして、ドラマチックな選手の輝き…
誰よりも日本代表への熱い思いを抱いた男が、
W杯でゴールを決める。
岡田監督は、多くの日本人が描いた
その夢を奪ってしまった。

しかしこの件について、カズが何か恨みめいたことを
言ったことは一度もない。
ひと足早く合宿から帰国した時の会見で
「日本代表としての誇り、魂みたいなものは
向こうに置いてきた」と語ったカズ。
そこにあるのは、自らの生き方、
そしてサッカーへの、ゆるぎないプライドだ。

日々の生活の中で、悔しい思いをしたり、
苦しさを覚えた時、ふと思う。
「あの時のカズの悔しさに比べれば、
こんなの屁でもないな」

インタビュー中のカズの言葉は、あえて編集すること
なく、そのままの形で掲載しているので、
まるで自分が横にいて話を聞いているような
臨場感がある。
ありのままのカズを知るには、格好の一冊だ。


■個人的ハマリ度  ★★★★(★5つが最高)
一志 治夫
たったひとりのワールドカップ―三浦知良、1700日の闘い