「戦争」という名の日常。 | 活字 & 映画ジャンキーのおたけび!

「戦争」という名の日常。

【となり町戦争(本)】 

●著者 :三崎亜紀
●出版社:集英社(2004.12 発行)
●価格 :¥1,470


昨年の話題作。ようやく読了。
なんとも不思議な味を持った作品だ。

会社員である主人公の僕は、ある日、
町の広報誌で、自分の住んでいる町と、
となり町とが戦争を始めることを知る。
実際に戦争が始まっても、それらしき音も光も
気配も感じられず、街は平静を保っているように
見えた。そんな僕のところに町役場から
「敵地偵察」の任務が届く。
戦争の実感を持てないまま、僕はとなり町へと
踏み込んで行く…

まず何といっても設定の妙!
日本人にとって、いつしか戦争は
「テレビの画面で見るもの」
という認識になって久しい。
そんな戦争に対する、2次元的でリアリティの
欠如した感覚を、「となり町との戦争」という、
ありえない状況に置き換えることで、
逆に奇妙なリアリティを生み出すことに成功している。
そしてディテールを積み重ねていくことによって、
この狂気を帯びた静寂な世界を構築する、
新人離れした文章力もすごい。

最初、「となり町との戦争」という状況の
背景にあるもの、これは、いつの時代のどこの話?
町同士が戦争をしなければいけない理由は?
など、説明不足の部分が気になっていた。
それは読者それぞれが考えてほしい、といった
スタンスは、ただの逃げなんじゃないかと
いうように思ったのだが、読む進むにつれて、
気にならなくなっていた。
作者のねらいは、そういった戦争の背景や状況を
訴えるのでなく、何もわからぬまま戦争に巻き込まれて
いくひとりの人間が何を感じ、考えるのか、
その思いと行動を通して、戦争のもつ本質を描こうと
しているのではないかと考え直したからだ。
それは言いかえれば、現代の日本、あるいは日本人と
戦争の関係の投影ともいえる。

小説の中では、爆弾が爆発することもなければ、
人が死ぬシーンの描写もない。
それでも、首にナイフを押し当てられているような、
ひんやりとした恐怖が行間から漂い、
静かに迫りくる緊迫感に、息苦しさを覚える。
予想外の結末も、ひねりが効いていて切れ味がいい。

話題作にはすぐに、映画やドラマ化が舞い込む
昨今だが、これは映像にするのは、
おそらく無理だろう。
それは、これが本の中で描かれていることに
プラス、読者の頭の中の想像によって
完成される物語だからだ。
そういう意味でも、まさに小説を読む醍醐味を
満喫できる一冊と言える。


■個人的ハマリ度  ★★★★(★5つが最高
三崎 亜記
となり町戦争