渾身の一作の、裏にあるもの。 | 活字 & 映画ジャンキーのおたけび!

渾身の一作の、裏にあるもの。

【鬼子(本)】 

●著者 :新堂冬樹
●出版社:幻冬舎文庫(2003.4 発行)
●価格 :¥600(上巻)、¥560(下巻)


新堂作品はいつ読んでも、人間の奥底にうごめく
エゴや嫉妬、怒りなどを余すことなく描いていて、
読み終わると、どっと疲れが出るのだが、
それでも一度読みはじめると、途中でやめられない
麻薬のような魅力がある。

本作の主人公は、売れない純文学作家の袴田勇二。
彼はここのところ、息子の浩の家庭内暴力に
悩んでいた。妻の君江までがなぜか冷たい態度を
取る。そして娘の詩織が浩の不良仲間に陵辱される
にいたり、完全に家庭は崩壊する。
途方にくれた袴田に近づいた編集者の芝野は、
ある提案を持ちかける。家庭崩壊のありのままを
暴露した作品「鬼子」の執筆を…。

主人公が小説家ということもあってか、
いつにもまして、その心理描写には鬼気迫る
リアリティを感じる。
主人公の追い込み方もすごいが、それにも
まして編集者の芝野のキャラがえぐい。
文庫の解説の人が、この本を編集者から
渡された時に、「くれぐれも言っておきますが
これはフィクションですから」と言われたと
書いているが、まったくこんな編集者が実際に
いたらと考えると、冷や汗が出てくる。
とはいえ、血眼になってベストセラーを求める
出版業界を考えれば、決してフィクションの
世界でないかも、という思いもちらっと浮かぶ。

物語は袴田を巡る意外な真実が明らかになり、
さらに衝撃のラストを迎える。
このあたり、いささか強引な気もするが、
もう勢いで読まされるという感じで、
これもありかなと思えてしまう。

最近は感動系の作品まで、その幅を広げている
新堂氏だが、ここまで極限のエゴを
描けるということは、その対極の愛をも
描けるということなのだろう。
少々刺激的な読書体験をしたい方は
一度お試しを。


■個人的ハマリ度  ★★★★(★5つが最高)
新堂 冬樹
鬼子〈上〉
新堂 冬樹
鬼子〈下〉