想定内と想定外 | 活字 & 映画ジャンキーのおたけび!

想定内と想定外

【センセイの鞄】  

●著者 :川上 弘美
●出版社:文藝春秋(2004.9.03発行)
●価格 :¥560


ご存知、恋愛小説の名手によるベストセラー。
文庫になっていたので手に取ってみたが、
売れてからもうかなり経っていたし、
小泉今日子と柄本明でドラマ化も
されていたりで(未見)、読む前から
すでに大まかなイメージはあった。

37歳の独身女性、ツキコさんと、
高校時代の国語教師である70代の
センセイとの、年の離れたはなかい恋。
あーいかにも女性が好きそうな話だなあと
思いながらページをめくっていくと、
やはり予想通りの展開と空気。
行きつけの居酒屋を舞台に、
つかず離れずの微妙な関係を続けるふたり。
センセイに引かれつつも素直になれない
ツキコさん。そんな彼女の気持ちを知ってか
知らずか、憎まれ口をたたくセンセイ。
少しずつ、少しずつ縮まるふたりの距離。

途中から、ドラマを見ていないにも関わらず、
ツキコさんに小泉今日子を重ねていた。
このキャスティングは絶妙だと思う。
柄本明は、設定からすると
いささか若すぎるように思うが。

ふたりの間に流れる、ほんわかとした空気を
楽しみながらも、やっぱりこういう話だった
んだなあと読み終わろうとしたところに、
その想定外の事は起こった。
目頭がアツくなったかと思うと、あやうく
涙がこぼれ落ちそうに……え? 何だ?
最後の数ページを何度も読み返してみる。
いかん、やはり込み上げるものを抑えられない。

そう、軽く、フフンと読みながらも、
いつのまにか僕はしっかりと、ツキコさんと
センセイの魅力にやられ感情移入していたのだ。
それ故、最後の最後、ふたりに流れる空気
の突然の転調に動揺し、心かき乱されたのだ。

ありきたりだけど、
人を好きになるって、やっぱりいいなと思う。
そして、少し哀しいとも思う。
今度、ドラマを見てみよう。
もう一度、ふたりに会うために。


■個人的ハマリ度  ★★★★(★5つが最高)


著者: 川上 弘美

タイトル: センセイの鞄