縦横無尽、文学の重力を突き破る。 | 活字 & 映画ジャンキーのおたけび!

縦横無尽、文学の重力を突き破る。

【重力ピエロ】  

●著者 :伊坂幸太郎
●出版社:新潮社(2003.04発行)
●価格 :¥1,575


今やすっかり売れっ子の伊坂幸太郎。
ようやく一冊目を読んでみたが、
なるほど、評判に違わぬ新しさ、おもしろさだ。

主な登場人物は、血のつながらない兄弟とその父。
物語は、連続放火事件と、そこに残された落書き、
そして、弟の「春」が背負わざるを得なかった運命
がからみ合って進んでいく。
バラバラに見えたピースが、少しずつ交差し、
ひとつの結論へと導かれていくさまは、
読んでいて背筋がひやっとする快感を覚える。

物語の構成も見事だが、それと同じぐらい
魅力的なのが、この人の文章だ。
短いセンテンスでテンポよく連ねられた文体は
シャープで、流れるように読み進められる。
もって回った、少々キザッたらしいセリフも、
この文体にあっては違和感なく溶け込んでいる。
ひと昔前、若い世代が書く新感覚の文学が、
「J文学」と呼んでもてはやされた
時代があったが、これは、そういったくくりにも
収まらない、文学の重力とは無縁の域にある
作品のように思える。

しかし、一見軽く明るい文章の中に潜んでいる
テーマは、実はかなり深くてヘビーだ。
読み終わってタイトルを眺めると、
そこに込められた作者の思いが、
静かな余韻とともに胸に迫ってくる。
物語の終盤、余命わずかな父が春に語った
一言が忘れられない。
ハッとして、そのまましばらく文字を
見つめていた。
僕にとっては、この一言を読めただけでも
本書を読んだ価値が十分にあった。



■個人的ハマリ度  ★★★★★(★5つが最高)
著者: 伊坂 幸太郎
タイトル: 重力ピエロ